ご案内

ginsa5.jpg
ちえのわ雑文集原稿募集中! 書いてみたい、という方はブログ右袖記載のメールアドレスまでご連絡ください。

詰パラ 入選152回 高等学校

詰将棋パラダイス2019年7月号
高等学校

高5 入選152回
東京都 鈴川優希


誤3 無9
A57 B16 C2
平均2.73

占魚亭―気持ちの良い軽さ。好きです。
本○瑞生―収束、指がしなる。



これといった狙いはない、ただの手筋物。
一応、2手目同玉の変化と3手目18金の紛れがちょっとおもしろいか。分岐を参照ください。
高校は期末に好作を集めすぎる傾向にあるので、半期始めはこんなものでもやたら高得点が出たりする。

詰パラ 入選155回 同人室

詰将棋パラダイス2019年6月号
同人室

⑤ 入選155回
東京都 鈴川優希


誤0 無15
A18 B2 C1
平均2.80

中○慶一―2枚飛を捨てることで銀を成駒にして同じ位置にもどす。構想が素晴らしい。
黒川○樹―77飛が見えず苦戦しました。ゴツイ飛車ですね。
竹中健○―77飛~76飛は、なかなか気づかなかった! 絶妙手ですね! 今回の構想作テーマではナンバーワンだと思いました。



あえて守備駒の利きにぶつけて限定打する筋は昔からよくある。それを2回行って、玉方銀の成らせというテーマを組み合わせたのが本作。
特に77飛という手は攻方の馬の利きを遮ってしまうので相当やりにくいはず。紛れは多いわけではないが、心理的な難しさのある作品で、詰工房で出したら宮田プロや解答王の竹中さんもなかなか解くのに時間がかかっていた。
収束をまとめるのに1年以上かかってしまったが、おそらくこれが最短で最善だろう。

ところで、本作のアイディアを閃いたのは、宗看の無双51番のおかげ。


銀にぶつけて飛2枚を限定打するというコンセプトは同じ。
この構図を1段下げたら、銀の成らせができるんじゃないかと思いついた。
もちろん、飛2枚を消費する見返りに銀を成らせるメリットを考えなければ成立しない。
(無双の図で)25銀が成銀になったら、34の守備が消える。それによって収束に入るように作ればいい。
しかしそれだけでは不足で、34の守備を消すためだけなら飛は1枚捨てれば充分ということになってしまう。26成銀ではダメで、25成銀ではないといけない理由が必要なのだ。
それを実現させたのが今回の発表図というわけ。88馬のラインの開閉に、ロジック成立の鍵を見出した。



ここからは完全に蛇足ですが、無双51番をできるだけ原作の雰囲気を残しながら現代風に改作してみた図がこちら。


他人の作品をむやみに改作すると顰蹙を買う世の中ですが、古図式は著作権も消えていますし、節度をもってやるぶんには創作技術の向上に最適だと思うのですが、どうなのでしょうか。

詰パラ 入選151回 A級順位戦

詰将棋パラダイス2019年6月号
A級順位戦

② 入選151回
東京都 鈴川優希


誤1 無3
5-10 4-11 3-9 2-1 1-0 ※2
平均3.967
3位残留

川島○嗣―初手の発見に呻吟。16飛から敵銀を1回転させるシナリオに感嘆。
○下誠―玉を守る2枚の銀の成生の綾に精妙な味わいがある。
☆銀を成らせる構想も、銀を1回転させる構想も、よく見かける。しかし、2枚の銀を絡ませて一つに織り込んだ作品は珍しいのではないだろうか。(解説:夏風)



初形から16銀を18成銀に変化させて、頭金迄の1手詰。うまくできた。
序の2手を入れるのに非常に苦労していて、何がそんなに難しいのかというと、
・初手27歩、同銀生、17金は逃れ
・初手17金、同銀成、27歩は詰む
という紛れと作意の両立が大変なのだ。
36玉と避けられた時の詰ませ方で手順前後の違いが出るように作らなければいけないのだが、さらに条件として
・初手17金に36玉は詰む
・初手18桂に36玉は詰まない
という切り分けも必要なのである。
四苦八苦しながら最初に到達した図がこちら。


初手に捨てる駒を角にしたことで、36玉の変化を35角と出るようにして詰ませている。この変化で金4枚を使い切るようにしているので、初手27金~17角は詰まないという仕組み。
もちろん、こんな図のまま世に出すわけにはいかないので、再度いじりまわして到達したのが発表図ということになる。玉方の銀が27に来たときに38にも利いてくることに気付いたのが鍵だった。(その間に別の論理で変化紛れを切り分けた図もいくつかできたが、すべてボツにした)

発表図も、決して置駒が少ないわけではないのだが、なんとか狭い範囲に収まって誤魔化せていると思う。38香は少し気持ち悪い配置かもしれないが、37で清算して38金と据える筋や38桂の余詰を消しているのに加えて、36玉の変化で積極的に働いている(つまり、もし二歩が許されたとしても38歩配置ではいけない)という絶対性があり、効率はよい。このあたりは、推敲の成果だ。

詰パラ2019年9月号雑感

ブログに詰パラ雑感を書くのは久しぶりです。
今月号では注目したい作品が多く、1つの記事にするだけのネタがあるなと思ったので。


・大学
自作が入選。私には珍しい簡素形です。こんなのじゃボツになるかもと思って投稿したのですが、ありがたいことに採用してもらえました。解くのは骨が折れるので、腕自慢の方はよろしくお願いします。

・アマ連握り詰
武島作はなんでこんなことが握り詰でできるんだと驚いてしまう作品。馬屋原作はセンスが光る作で、全国大会の会場でこの2作を見て感心していました。

・ちえのわ
太刀岡さんには担当者なら書けるよねと押し付けたような形になってしまいましたが、お願いしてよかったと思いました。
現在、年内は枠が埋まっていますが、それ以降は未定ですのでネタのある方はぜひご連絡ください。

・A級順位戦結果稿
ギリギリのところで降級を回避しました。私としてはかなりよくできた部類だったのですが、やはりこういうものは順位戦では伸びにくいようです。作品の詳細は別記事で。

有吉作。角の最遠移動は去年の看寿賞候補にもなった同氏の中学校の作品が記憶に新しく、いろいろ試した中でこの作品も派生したということでしょう。本作は最遠移動の後にこんなにも捨駒が入るのかという驚きがあって、構成も完璧。よくある表現を使わせてもらうなら、このタイプの最遠移動の決定版といった印象で、今年の看寿賞も有力ではないでしょうか。

・B級順位戦結果稿
解説を担当しました。分かりやすい解説ができたと思って悦に入っているのですが、書きそびれたこともあるのでこの場で補足を。

武作。2手目14桂合は作者自認の変同、と書きましたが、実際のところ作者は「変化中25桂合の逆王手は無駄合グレーゾーンだと思っているが、もし有効合だったとしたら変同でこれはしょうがない」、という判断で投稿されていました。私としては、どこにも無駄合と主張できる要素がないと思いましたので、スペースの都合で深入りすることなく変同という扱いにさせてもらいました。
変同のせいで混乱した解答者が多く、バツにするのは忍びないなあと思う解答もあったのですが、点数をシビアに競う順位戦の場ということで、作意と変同解、変同余詰解以外は誤解と判定しています。

則内作。「初手も最終手も44龍のおまけつき」と解説には書きましたが、投稿用紙に記載はなく作者が意図していたのかどうかは不明です。でも私はこのような形式的なところに詰将棋としての価値を見出すタイプなので、解説で必ず触れておきたいと思ったポイントです。

芹田作と馬屋原作は評点がまったくの同点でしたが、昨年の順位の差で馬屋原さんが昇級。ちなみに、昨年のC級順位戦も私が解説したのですが、ここでもまったくの同点が出て、今回のB級坂田氏が昇級しています。

小林作。解説で引き合いに出した4月号高16石川作は次の通り。
せっかくなので、今回の小林作も並べておきます。




この2作をよく見比べていただきたいと思います。
小林作(下)は収束で飛車が消えないことが不満だと解説に書きましたが、先行の石川作は最遠移動で行って帰ってきた角を収束に消していることが大きな違いです。
また、石川作は「作意中で歩を打たない」ことも見逃してはいけません。

「持駒に歩がない状態での打歩関連手筋」は打歩詰作品の一大テーマだと私は考えていて、
(1)打歩詰になるという未来が見えていない段階での攻防なので、意外性・深みが増す。
のはもちろん、
(2)歩を打つ手およびその前後の緩みを変化に隠すことができ、作意手順を濃密にできる。
という利点があります。
特に(2)の利点は短編においては重要で、第n回裏短コンで優勝した「欺きの一角獣」が好例ですし、今回のB級順位戦でも則内作がそれにあてはまります。
石川作と小林作を比べてみても、歩と桂を単に打って収束する小林作に対し、石川作は歩を打つ手を省略することによって同じ13手という中で捨合、角捨、移動合を詰め込むことに成功しています。

では、小林作が優れているところはどこか?と考えますと、やはり配置の良さが挙げられるでしょう。
使用駒数で比較するとほとんど違いはありませんが、小林作は6×6に収まっている状況から最遠移動が出るというところがミソで、舞台装置が優秀といえます。このあたりの作図感覚は、数々の名作短編を生み出してきた小林氏ならではといったところ。
4月号で出題された石川作を解いて、これは飛にしたらおもしろいのではと考え、ひと月で作って即座に投稿。そんな小林氏の瞬発力を見習いたいです。

・C級順位戦
まず柳澤作がすごい。打ち捨てで馬をこの軌跡で3/4回転させるものは図巧75番や詰パラ2015年2月中学校の三輪作くらいしか前例がなかったはずで、私も作ってみようとして挫折したくらいには難しい条件です。今回の柳澤作は最後の馬捨てが素晴らしい。実現させただけで拍手喝采の手順です。
配置が嫌われて降級してしまいましたが、私としてはこの手順をやるならこれくらいの配置は必要だろうなと思ってしまいます。

天内作。これはいい逆算で、金合を出せたのが素晴らしい。31銀さえなければ。

三輪作。最遠移動からこんな収束につながるなんて。逆算で作っているのでしょうが、よくこんな初手が入ると思ったものです。

・同人室
三輪作。


作者コメントによれば、「取歩駒を発生させてそれを捨てさせて持駒にするのが構想」とのこと。「この構想は初めてとは思いませんが見た事はありません」ともありますが、これはついこの前武島さんが発表したばかり。


さすが武島さんという感じで、最低限の配置で狙いだけをスマートに表現しています。
あんなに駒を置いてやっと成立させた三輪さんの感想を聞いてみたいのである。笑

おそらく三輪さんは作者コメントにもある通り、構想よりも演出にこだわって仕上げたのだと思われますが、同じ構想で演出がもっとおもしろい作品もすでにあります。


攻方が森田手筋を目論んだところ移動合で取歩駒に逃げられるところまでは同じ。本作はその後もう一度森田手筋をやって、龍のアンピン(55龍捨)で森田手筋が成就するというストーリー。さすが本職の構想作家は違いますね。三輪作・武島作と違って移動合した角を取らずに構想に再利用するところが巧いです。

ところで、武島作と井上・久保作は詰パラの同じ号のデパートで同時に発表されています。担当者は「新構想(恐らく)ゆえ、発表順で不利にならないよう同時選題とした」とのこと。
この2作は『この詰将棋がすごい!2019』でも紹介されていて、久保さんの解説が読めるのでぜひご覧ください。
その久保さんは、今回の三輪作に対して「森田手筋に対して取歩駒を逃す移動合で受ける構想を歩がない局面で実現したのが主張点でしょうか」と結果稿でコメントしていて、確かにこれは武島作や井上・久保作には見られないポイント。先ほど私が小林作・石川作のところでも考察したように、持駒に歩がない状態で打歩をめぐる攻防をすることにはそれなりの価値があると思っています。
しかし、2つの価値
(1)打歩詰になるという未来が見えていない段階での攻防なので、意外性・深みが増す。
(2)歩を打つ手およびその前後の緩みを変化に隠すことができ、作意手順を濃密にできる。
に対して、三輪作は結局作意で歩を入手して打つことになるので、主張できるのは(1)だけでしょうか。
もっとも、作者コメントでは「歩がない状態で」ということに関してそもそも触れられていないため、三輪さんよりも久保さんのほうが作品を正確に分析できているような気がするのである。笑

金子作。これはブルータス手筋が構想というよりも、バッテリーのフロントピースの位置を変える構想と考えたほうがよさそう。今までありそうでなかったアイディアで、今後どんどんおもしろい作品が出てくるのではないかと思います。本作は馬が邪魔駒という意外性の演出が巧く、ぜひとも記憶にとどめたい作品。

鈴川作。心理的な難しさがあって無解者が多かったですが、解けた方には狙いが伝わったようで何よりです。また別記事で。

ところで話は変わりますが、私は結果稿に自分の作者コメントをできるだけ載せてほしくないというのが本音です。今月は順位戦でも同人室でも私のコメントが長々と載ってしまっていますが……。
私が投稿用紙にコメントを書いているのは、自作を採用してくださいと担当者にアピールするためというのが一点、そして作品の狙いを担当者に正しく伝えるためというのがもう一点です。
担当者に向けて書いたメッセージのはずなのにそれを誌上で長々と公開されてしまうと、作者が自分の作品について求められてもいないのにペラペラと饒舌をふるっているようで、私としては非常に気恥ずかしいのです。
作品の狙いを正しく理解した上で、それを読者に対して客観的に伝えて批評をするのが担当者の役割だと思っています。そのため私が結果稿を書く側に回った際は、できるだけ作者コメントの引用を避けて自分の言葉で解説しているつもりです。
もちろん解説のやり方は人それぞれ、自由なのですが、自作に対して自分があれこれ語っている結果稿を読んでも作者はちっともおもしろくないのです……。
そんなに嫌ならあらかじめ投稿用紙に引用するなと書いておけばいいじゃないか、と言われるかと思います。一時期そういう但し書きをしていたこともあったのですが、それはそれで採用されることを前提にした傲慢な態度である気がしてやめてしまいました。せっかく自作を解説してくれる方に対して、こちらから事前に解説の仕方に注文を付けるというのは、なんだか気が引けるのです。
身勝手な悩みだとは思いますが、どうするのがベストなのでしょうか……。

話を同人室に戻して、海老原作。


解説では禁じられた遊び手筋だと書かれているので、このブログの禁じられた遊び手筋リストにまた新たな作品が加わった……かと思ったのですが、本作、本当に禁じられた遊び手筋ですか?
まず短評にある「『禁じられた遊び』テーマとするため59角~39飛で焦点を8段目に持ってゆく」という解釈は誤りで、59角はただ単に攻方飛の縦の王手を遮らないため(かつ、77に活用できる)、という意味付けだと思います。作意手順中の48桂成も、焦点へ中合して角の利きをブロックするのが目的ではなく、単に飛車を近づけるためのものです。
また解説には「10手目単に46桂合だと45歩、34玉、39飛に対し38桂と打てないので銀を合駒せざるを得ず詰む。そこで48桂成~46桂合として45歩なら34玉のとき38飛を取ってしまうわけだ」とありますが、10手目46桂合の変化で38桂合が打てないのは八段目だからという以前に桂馬が売り切れだからです。
百歩譲って、桂馬を玉方がもう1枚持っていたとしたら確かに八段目のおかげで打てなくなるのですが、それはただ単純に「変化の一つで八段目桂合禁止のため詰むようになっている」だけであって、桂合の可否を巡って攻方・玉方が何か策を講じるわけではないので、禁じられた遊び手筋とは言えないような気がします。(直接の38桂合がダメなので46桂合から38桂成の移動合で八段目桂合を可能にする、などといったストーリーなら禁じられた遊び手筋に間違いないのですが)
もっとも、作者は何か一つの構想を狙って作っているわけではなさそうなので、禁じられた遊び手筋になっていないからといって本作の価値が落ちるとは思いません。ただ、作品に対する誤った理解は避けるべきだという話でした。

・創棋会作品展
谷本作。これがおもしろいです。最初と金を27に誘導するために、わざわざ角1枚捨てて26→27と迂回させるのが不思議な手順です。先月号の久保作「モーメンと」と並んで、好みど真ん中。

・表紙(結果稿)
ここ数年の表紙で一番好きです。額に入れて飾っておきたいような美しさ。


……以上です。思いついたことを片っ端から書いていたら、かつてないくらい長くなってしまいました。読みにくい部分もありますが、雑感ということでお許しください。

モデルメイトとは何か?

全国大会が終わってから1か月が経ちました。
全国大会効果というのか分かりませんが、詰将棋に対する熱は少し戻ってきていて、今月すでに中編を3作ほど作っています。
1年ほど、完全に創作から離れていたので、これで復活ということになればいいなと思います。

さて、本題ですが、詰パラ8月号を読んでいて少し気になった箇所が。
短21、石川氏作の解説のところです。


石川氏はいつもはっとするようなアイディアを取り入れた作品を発表されていて、非常に注目しています。
本作も、簡素な初形から高木手筋風の(※1)桂合が出てきて、飛2枚を捨てる収束までオリジナリティの高い手順です。

この記事で問題にしたいのは、作品の内容ではなく、詰上りに対しての解説です。

☆メインの27角生移動合は打歩誘致の常套手段。38桂と据えてからの36飛捨てが決め手となり、さらに25龍と捨てての詰上り。攻め駒は小駒ばかりで枚数は多いものの、いわゆるモデルメイトである。

はて? この詰上りは、果たしてモデルメイトと言っていいのだろうか。これが今回のテーマです。

modelmate1.png図1

モデルメイトとは、おそらく2013年ごろから詰将棋界に登場した用語で、もとはチェスプロブレムの概念だったものを輸入した形です。
その定義ですが、誰かによって統一された定義はなく、人によって使い方に少し差があるように思います。
おそらく最も一般的な解釈は、「詰上図において、玉の周りのマスに攻方の利きが重複しない」というもの。

図1を見ると、確かにその条件は満たしているように思います。が……。
25の地点、これが問題なのです。玉方の馬が25を埋めているので、ここにはそもそも玉が逃げる余地がない。にもかかわらず、攻方の37桂がそれをダメ押しで阻止しているのです。

私の見解から先に言いますと、図1はモデルメイトではありません。

そう主張したい背景には、モデルメイトという言葉が使われるようになった意図をしっかり説明する必要があります。

modelmate2.png図2
modelmate3.png図3

まずは、図2図3を見比べて、どちらのほうがより美しい詰上りだと感じるでしょうか。
「どっちもたいして変わんないよ」という方のために、もう1つ例を用意しました。
次の図4図5は、どちらがより美しい詰上りでしょうか。

modelmate4.png図4
modelmate5t.png図5

どの図も、実際の詰将棋でしばしば見かけるような詰上りだと思います。
しかし、特に図5を見てみると、駒の利きがいろいろ重複している箇所があり、さすがに図4のほうが優れていると感じる方のほうが多いのではないでしょうか。
せっかくの両王手の詰上りなのだから、角の長い足で捕まっていることを強調するために、58地点には壁駒を置きたくないし他の攻駒を利かせたくない。そう考えるのが詰将棋作家だと思います。
また図2図3に関しても、よりシンプルな図2に軍配が挙がる気がします。

このような「詰上りの美しさ」を図る指標の1つが、「モデルメイト」なのです。
できるだけ少ない攻駒で、ギリギリのところで玉を捕まえているからこそ緊張感が生まれますし、特に超短編においては重要視されてもいい基準と言えそうです。

また、これはちょっと話が横道にそれますが、図3には最終手余詰が生じているという問題もあります。
持駒の金を打ったところだったと推測すると、図6のようになりますが、これは23龍、22合、32金、11玉、22金迄の最終手余詰ですね。

modelmate6.png図6

もちろん中長編の収束となってこんな最終手余詰を気にしていたらキリがないですが、もしこれが1手詰や3手詰だったとすると、なかなか痛いキズだと思われます。
このような事態が発生するのは、つまり詰上りで攻駒の威力が過剰だから。そもそもギリギリのところで捕まえている図2であれば、最終手余詰は生じようがないのです。

modelmate2.png図2再掲
modelmate4.png図4再掲

話を元に戻します。ここに再掲した図2図4のような詰上り、これがモデルメイトです。
重要なのは、「玉の周りで攻駒の利きが重複しない」ことというよりも、「ギリギリのところで駒効率よく玉を捕まえている」こと。
それが、詰上りの美しさにつながってきます。

このような点を踏まえますと、例えば次の図7のような詰上りは、モデルメイトと認定したくない気持ちがご理解いただけるかと思います。

modelmate7.png図7

確かに、攻駒の利きの重複こそありませんが、56の桂や48の歩は詰上りにおいて必要のない存在です。これらがあるのであれば、57銀ではなく58桂くらいで充分なのです(その図は文句なくモデルメイトです)。

玉方の壁駒による重複がある詰上りをモデルメイトと認めてしまうと、そもそもモデルメイトという概念を持ち出してきた意味自体が薄れてしまうということを強調しておきたいと思います。

念のため申し上げておきますが、この記事は石川氏の作品や解説の石黒氏を批判する目的で書いているものではありません。定義が曖昧な現状において、モデルメイトという概念をしっかりと整理して、理解の普及を促すことが目的です。



さて、関連する話題ですが、「透かし詰のモデルメイト」ということにもついでに触れておきたいと思います。
少し考えれば分かることですが、透かし詰において、厳密な意味でのモデルメイトは基本的にはあり得ません(※2)。

modelmate8.png図8

このように、合駒を防ぐため、どうしても玉に接するマスの1つに攻方の利きが重複してしまいます。

しかし私は、図8のような詰上りも、モデルメイトとして分類していいように思います。
というのも、図8はモデルメイトの根本的な概念である「ギリギリのところで駒効率よく玉を捕まえている」に当てはまるからです。
合駒を防ぐためのマス以外の部分に攻方の利きや壁駒の重複がなければ、それでいいじゃありませんか。
透かし詰であっても、詰上りの美しさを図る尺度としてモデルメイトの概念を使えたほうが便利に違いありません。



また話題は少し変わります。
今までは簡単のため、「すべての攻駒が詰上りに協力する」ことを前提として例を出してきましたが、次のような図はどうでしょうか。

modelmate9.png図9

図2に53歩を追加したものです。実際の詰将棋には、このようなパターンがかなりありますね。
これは果たしてモデルメイトと呼んでもいいのでしょうか。
私は、グレーなところだと思っています。

というのも、何度も言うようですが「ギリギリのところで駒効率よく玉を捕まえている」というモデルメイトの概念に図9が当てはまるかというと、ちょっと首を傾げたくなるからです。
詰上りに協力しない攻方53歩という駒が残ってしまっているとなると、美しさという点では価値が少しだけ下がりそうです。
少なくとも、れっきとしたモデルメイトであった図2とは、一応の区別をしておきたいと思っています。

図2モデルメイト図9準モデルメイトと呼んで区別するか。
図2純正モデルメイト図9を単なるモデルメイトと呼んで区別するか。

方法はいろいろあるかと思います。チェスプロブレムではピュアメイトという用語もあるそうです。(詳しくは知りませんが……)

ただ、この区別のための用語を今すぐに決めたり、その使い分けを他の人に強制したりするようなことをする必要はまったくないと思っています。
話す上では、どちらもモデルメイト、だけで充分です。

そもそもモデルメイトは、詰上りの美しさを言語化するためのただの指標であって、その定義について深く厳密に議論するようなものではないと思っています。
昔詰パラで提唱された、動駒率、消去率、回転率のようなものです(※3)。
あくまで指標。モデルメイトではないからといって、その作品の価値が大幅に下がるようなことはありませんし、モデルメイトにしたからといって作品の質がグッとよくなるといったこともないでしょう。

例えば創作の仕上げの段階で、配置の二者択一を迫られた時に、こっちならモデルメイトになって気分いいな、ということを基準にして決める。それくらいの扱い方でいいと思います。
(まあ私は、自分の作風としてけっこう詰上りを重視しているのですが……。そういう人は少数派でしょう)

そういえば以前、モデルメイトに関連して、こんなことを言われた覚えがあります。

modelmate10.png図10

利きが重複しないのがその定義なら、この図だってモデルメイトじゃないか。どこがギリギリで気持ちのいい詰上りなんだ、と。
その通りです。モデルメイトに間違いありません。

しかし、この図においてモデルメイトという言葉を出してくることは、それ自体が少し見当外れなのではないかと思っています。
喩えるなら、裸玉の作品を見て、「これは不動駒ゼロの作品だ」、「これは初形“点”の曲詰だ」と言ったり、
煙詰の作品を見て「初形が盤面全体に広がっていて美しくない」、「長編なのに繰り返し趣向が入っていなくてつまらない」などと言うことと似たようなものだと思っています。

モデルメイトという概念が意味を持ってくるのは、詰上りの形のよさがアピールポイントの一つとなっている作品に対してのみです。
例えば、盤面右上にまとまった初形から、大海へ玉を追い出して、角の長い足を使って脱出寸前のところを捕まえる作品。
このような場合は、詰上りのギリギリ感こそが作品の狙いにダイレクトに関わってくるので、モデルメイトという概念が非常に大切になってくるのです。

せっかくなので図10に関して、もう一点だけ。
そもそもモデルメイトは、美しい詰上りであるのための十分条件ではありません。
モデルメイトならば美しい詰上りであるという解釈は誤りなのです。それを図10は示してくれています。
ならばモデルメイトは美しい詰上りのための必要条件かというと、それもまた違うと思います。
詰上りが美しいと感じるのは、その詰上りがモデルメイトになっているからだ、とは限らないはずです。利きの重複以外にも、いろいろな要素によって詰上りの美しさというものは変わってきます。

何度も言いますが、あくまで指標。モデルメイトであれば、その詰上りを美しいと思える傾向がある。それだけのことです。
(今までの詳しい議論は何だったんだ、となるような結論ですが)



以上、モデルメイトについていろいろ語ってきました。
私が示した例で、どれをモデルメイトとするのか、しないのか、という点に関しては、やはり人によって違いがあると思います。
もちろん、その考えを否定するつももりはありませんし、冒頭で問題提起した石黒氏の解説も、これは完全なる誤りだ、と批判するつもりもありません。
ただおそらく、モデルメイトという言葉が使われ始めたのは、このブログがかなり起源に近いという事実があります。(※4)
当事者の一人として、私自信はこのような解釈をしているのだ、ということをここにまとめておきたいと思い、こうして記事を書いています。

皆さんも、ぜひモデルメイトという概念を頭の片隅に入れて、創作や鑑賞に役立てていただければ幸いです。



※1
高木手筋もまた、解釈の分かれる用語ですが、ここでは最も広義に捉えて、「ある大駒XがラインA→ラインBの順で王手する。ラインBの王手に対してある合駒をしたいが、それは何らかの理由によって不可能もしくは早詰になる。そこで(本来は中合をする必要がない)ラインAの王手の段階で中合をしてXを近付けておくことにより、擬似的にラインBで合駒をした時と同じ効果を得る」という解釈にしておきます。高木手筋については、また別の機会に詳しく書くかも知れません。

※2
合駒制限や、大量の花駒を配置するなどして、「合駒が不可能」という状況を作り上げれば、透かし詰でも厳密なモデルメイトが作れます。ただしかなり特殊な状況なので、補足に回しました。

※3
動駒率、消去率、回転率もまた、詰将棋のよしあしを語る上で参考にするとよい(かもしれない)概念です。詳しくは、詰パラHPに載っています。→詰将棋オモロ講座

※4
モデルメイトという言葉を詰将棋で初めて使ったのは若島正氏(のはず)。
このブログでは2013年のこの記事のコメント欄が初出です。→詰将棋ウィークリー#39 解答
以降、三輪さんや私がこの言葉を気に入ってブログ上で使っていき、現在では稀に詰パラ上でも使われる用語として少しずつ普及していっているように思います。
カレンダー(月別)
09 ≪│2019/10│≫ 11
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
FC2カウンター
About
my cubeへようこそ。詰将棋のブログです。駒を並べてアートが表現できるって素敵なことじゃありませんか? 詰キストの方もビギナーの方も楽しんでいってください。

Author:鈴川優希
主に月刊誌「詰将棋パラダイス」に作品を発表している詰将棋作家。東京在住の学生です。詰将棋は小学生の頃から作り始め、2009年5月に詰パラ初入選。2015年12月に最年少同人入り(入選100回)。小~院すべての詰将棋学校で半期賞受賞経験あり。2016年4月より詰パラ連載「ちえのわ雑文集」の世話役に就任しました。原稿随時募集中です。

裏短編コンクール
2015年(第n回)・2016年(第φ回)に開催。使用駒数11枚以上、タイトル必須という条件で募集した作品を出題し、解答者に評価してもらうという企画です。結果発表はニコ生で行いました。作品の結果稿はブログ右袖のカテゴリーからご覧いただけます。なお、この裏短コンはほっとさんのブログ「詰将棋考察ノート」に受け継がれました。

今週の詰将棋・
詰将棋ウィークリー

今週の詰将棋は2009年7月からの2年間100題。詰将棋ウィークリーは1012年3月からの50週は幻想咲花さんとのコラボ、それ以降は鈴川単独の出題で2014年3月まで、#100をもって終了しました。解答していただいた方に感謝します。
※81puzzler閉鎖につき詰将棋ウィークリーの記事にはリンク切れが多いです。

解付き出題
自作を解付きで並べていくだけ。現在#120をもって休止中。在庫整理の意味合いが強いので質より量です。

詰将棋あるあるbot
Twitterで、詰将棋あるあるネタを5時間に1回ツイートするbotを作ってみました。ツイート内容は700種類用意していて、たまに更新されます。皆さんもハッシュタグ「#詰将棋あるある」でツイートしてみてください。@TsumeAru_bot

このブログはリンクフリーです。Sine 2009.6.
メールアドレス
makugaeru●yahoo.co.jp
●を@に替えてください。
全記事数表示
全タイトルを表示
最新記事
最新コメント
カテゴリ
検索フォーム
リンク
詰将棋あるあるbot