モデルメイトとは何か?

全国大会が終わってから1か月が経ちました。
全国大会効果というのか分かりませんが、詰将棋に対する熱は少し戻ってきていて、今月すでに中編を3作ほど作っています。
1年ほど、完全に創作から離れていたので、これで復活ということになればいいなと思います。

さて、本題ですが、詰パラ8月号を読んでいて少し気になった箇所が。
短21、石川氏作の解説のところです。


石川氏はいつもはっとするようなアイディアを取り入れた作品を発表されていて、非常に注目しています。
本作も、簡素な初形から高木手筋風の(※1)桂合が出てきて、飛2枚を捨てる収束までオリジナリティの高い手順です。

この記事で問題にしたいのは、作品の内容ではなく、詰上りに対しての解説です。

☆メインの27角生移動合は打歩誘致の常套手段。38桂と据えてからの36飛捨てが決め手となり、さらに25龍と捨てての詰上り。攻め駒は小駒ばかりで枚数は多いものの、いわゆるモデルメイトである。

はて? この詰上りは、果たしてモデルメイトと言っていいのだろうか。これが今回のテーマです。

modelmate1.png図1

モデルメイトとは、おそらく2013年ごろから詰将棋界に登場した用語で、もとはチェスプロブレムの概念だったものを輸入した形です。
その定義ですが、誰かによって統一された定義はなく、人によって使い方に少し差があるように思います。
おそらく最も一般的な解釈は、「詰上図において、玉の周りのマスに攻方の利きが重複しない」というもの。

図1を見ると、確かにその条件は満たしているように思います。が……。
25の地点、これが問題なのです。玉方の馬が25を埋めているので、ここにはそもそも玉が逃げる余地がない。にもかかわらず、攻方の37桂がそれをダメ押しで阻止しているのです。

私の見解から先に言いますと、図1はモデルメイトではありません。

そう主張したい背景には、モデルメイトという言葉が使われるようになった意図をしっかり説明する必要があります。

modelmate2.png図2
modelmate3.png図3

まずは、図2図3を見比べて、どちらのほうがより美しい詰上りだと感じるでしょうか。
「どっちもたいして変わんないよ」という方のために、もう1つ例を用意しました。
次の図4図5は、どちらがより美しい詰上りでしょうか。

modelmate4.png図4
modelmate5t.png図5

どの図も、実際の詰将棋でしばしば見かけるような詰上りだと思います。
しかし、特に図5を見てみると、駒の利きがいろいろ重複している箇所があり、さすがに図4のほうが優れていると感じる方のほうが多いのではないでしょうか。
せっかくの両王手の詰上りなのだから、角の長い足で捕まっていることを強調するために、58地点には壁駒を置きたくないし他の攻駒を利かせたくない。そう考えるのが詰将棋作家だと思います。
また図2図3に関しても、よりシンプルな図2に軍配が挙がる気がします。

このような「詰上りの美しさ」を図る指標の1つが、「モデルメイト」なのです。
できるだけ少ない攻駒で、ギリギリのところで玉を捕まえているからこそ緊張感が生まれますし、特に超短編においては重要視されてもいい基準と言えそうです。

また、これはちょっと話が横道にそれますが、図3には最終手余詰が生じているという問題もあります。
持駒の金を打ったところだったと推測すると、図6のようになりますが、これは23龍、22合、32金、11玉、22金迄の最終手余詰ですね。

modelmate6.png図6

もちろん中長編の収束となってこんな最終手余詰を気にしていたらキリがないですが、もしこれが1手詰や3手詰だったとすると、なかなか痛いキズだと思われます。
このような事態が発生するのは、つまり詰上りで攻駒の威力が過剰だから。そもそもギリギリのところで捕まえている図2であれば、最終手余詰は生じようがないのです。

modelmate2.png図2再掲
modelmate4.png図4再掲

話を元に戻します。ここに再掲した図2図4のような詰上り、これがモデルメイトです。
重要なのは、「玉の周りで攻駒の利きが重複しない」ことというよりも、「ギリギリのところで駒効率よく玉を捕まえている」こと。
それが、詰上りの美しさにつながってきます。

このような点を踏まえますと、例えば次の図7のような詰上りは、モデルメイトと認定したくない気持ちがご理解いただけるかと思います。

modelmate7.png図7

確かに、攻駒の利きの重複こそありませんが、56の桂や48の歩は詰上りにおいて必要のない存在です。これらがあるのであれば、57銀ではなく58桂くらいで充分なのです(その図は文句なくモデルメイトです)。

玉方の壁駒による重複がある詰上りをモデルメイトと認めてしまうと、そもそもモデルメイトという概念を持ち出してきた意味自体が薄れてしまうということを強調しておきたいと思います。

念のため申し上げておきますが、この記事は石川氏の作品や解説の石黒氏を批判する目的で書いているものではありません。定義が曖昧な現状において、モデルメイトという概念をしっかりと整理して、理解の普及を促すことが目的です。



さて、関連する話題ですが、「透かし詰のモデルメイト」ということにもついでに触れておきたいと思います。
少し考えれば分かることですが、透かし詰において、厳密な意味でのモデルメイトは基本的にはあり得ません(※2)。

modelmate8.png図8

このように、合駒を防ぐため、どうしても玉に接するマスの1つに攻方の利きが重複してしまいます。

しかし私は、図8のような詰上りも、モデルメイトとして分類していいように思います。
というのも、図8はモデルメイトの根本的な概念である「ギリギリのところで駒効率よく玉を捕まえている」に当てはまるからです。
合駒を防ぐためのマス以外の部分に攻方の利きや壁駒の重複がなければ、それでいいじゃありませんか。
透かし詰であっても、詰上りの美しさを図る尺度としてモデルメイトの概念を使えたほうが便利に違いありません。



また話題は少し変わります。
今までは簡単のため、「すべての攻駒が詰上りに協力する」ことを前提として例を出してきましたが、次のような図はどうでしょうか。

modelmate9.png図9

図2に53歩を追加したものです。実際の詰将棋には、このようなパターンがかなりありますね。
これは果たしてモデルメイトと呼んでもいいのでしょうか。
私は、グレーなところだと思っています。

というのも、何度も言うようですが「ギリギリのところで駒効率よく玉を捕まえている」というモデルメイトの概念に図9が当てはまるかというと、ちょっと首を傾げたくなるからです。
詰上りに協力しない攻方53歩という駒が残ってしまっているとなると、美しさという点では価値が少しだけ下がりそうです。
少なくとも、れっきとしたモデルメイトであった図2とは、一応の区別をしておきたいと思っています。

図2モデルメイト図9準モデルメイトと呼んで区別するか。
図2純正モデルメイト図9を単なるモデルメイトと呼んで区別するか。

方法はいろいろあるかと思います。チェスプロブレムではピュアメイトという用語もあるそうです。(詳しくは知りませんが……)

ただ、この区別のための用語を今すぐに決めたり、その使い分けを他の人に強制したりするようなことをする必要はまったくないと思っています。
話す上では、どちらもモデルメイト、だけで充分です。

そもそもモデルメイトは、詰上りの美しさを言語化するためのただの指標であって、その定義について深く厳密に議論するようなものではないと思っています。
昔詰パラで提唱された、動駒率、消去率、回転率のようなものです(※3)。
あくまで指標。モデルメイトではないからといって、その作品の価値が大幅に下がるようなことはありませんし、モデルメイトにしたからといって作品の質がグッとよくなるといったこともないでしょう。

例えば創作の仕上げの段階で、配置の二者択一を迫られた時に、こっちならモデルメイトになって気分いいな、ということを基準にして決める。それくらいの扱い方でいいと思います。
(まあ私は、自分の作風としてけっこう詰上りを重視しているのですが……。そういう人は少数派でしょう)

そういえば以前、モデルメイトに関連して、こんなことを言われた覚えがあります。

modelmate10.png図10

利きが重複しないのがその定義なら、この図だってモデルメイトじゃないか。どこがギリギリで気持ちのいい詰上りなんだ、と。
その通りです。モデルメイトに間違いありません。

しかし、この図においてモデルメイトという言葉を出してくることは、それ自体が少し見当外れなのではないかと思っています。
喩えるなら、裸玉の作品を見て、「これは不動駒ゼロの作品だ」、「これは初形“点”の曲詰だ」と言ったり、
煙詰の作品を見て「初形が盤面全体に広がっていて美しくない」、「長編なのに繰り返し趣向が入っていなくてつまらない」などと言うことと似たようなものだと思っています。

モデルメイトという概念が意味を持ってくるのは、詰上りの形のよさがアピールポイントの一つとなっている作品に対してのみです。
例えば、盤面右上にまとまった初形から、大海へ玉を追い出して、角の長い足を使って脱出寸前のところを捕まえる作品。
このような場合は、詰上りのギリギリ感こそが作品の狙いにダイレクトに関わってくるので、モデルメイトという概念が非常に大切になってくるのです。

せっかくなので図10に関して、もう一点だけ。
そもそもモデルメイトは、美しい詰上りであるのための十分条件ではありません。
モデルメイトならば美しい詰上りであるという解釈は誤りなのです。それを図10は示してくれています。
ならばモデルメイトは美しい詰上りのための必要条件かというと、それもまた違うと思います。
詰上りが美しいと感じるのは、その詰上りがモデルメイトになっているからだ、とは限らないはずです。利きの重複以外にも、いろいろな要素によって詰上りの美しさというものは変わってきます。

何度も言いますが、あくまで指標。モデルメイトであれば、その詰上りを美しいと思える傾向がある。それだけのことです。
(今までの詳しい議論は何だったんだ、となるような結論ですが)



以上、モデルメイトについていろいろ語ってきました。
私が示した例で、どれをモデルメイトとするのか、しないのか、という点に関しては、やはり人によって違いがあると思います。
もちろん、その考えを否定するつももりはありませんし、冒頭で問題提起した石黒氏の解説も、これは完全なる誤りだ、と批判するつもりもありません。
ただおそらく、モデルメイトという言葉が使われ始めたのは、このブログがかなり起源に近いという事実があります。(※4)
当事者の一人として、私自信はこのような解釈をしているのだ、ということをここにまとめておきたいと思い、こうして記事を書いています。

皆さんも、ぜひモデルメイトという概念を頭の片隅に入れて、創作や鑑賞に役立てていただければ幸いです。



※1
高木手筋もまた、解釈の分かれる用語ですが、ここでは最も広義に捉えて、「ある大駒XがラインA→ラインBの順で王手する。ラインBの王手に対してある合駒をしたいが、それは何らかの理由によって不可能もしくは早詰になる。そこで(本来は中合をする必要がない)ラインAの王手の段階で中合をしてXを近付けておくことにより、擬似的にラインBで合駒をした時と同じ効果を得る」という解釈にしておきます。高木手筋については、また別の機会に詳しく書くかも知れません。

※2
合駒制限や、大量の花駒を配置するなどして、「合駒が不可能」という状況を作り上げれば、透かし詰でも厳密なモデルメイトが作れます。ただしかなり特殊な状況なので、補足に回しました。

※3
動駒率、消去率、回転率もまた、詰将棋のよしあしを語る上で参考にするとよい(かもしれない)概念です。詳しくは、詰パラHPに載っています。→詰将棋オモロ講座

※4
モデルメイトという言葉を詰将棋で初めて使ったのは若島正氏(のはず)。
このブログでは2013年のこの記事のコメント欄が初出です。→詰将棋ウィークリー#39 解答
以降、三輪さんや私がこの言葉を気に入ってブログ上で使っていき、現在では稀に詰パラ上でも使われる用語として少しずつ普及していっているように思います。

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No title

おじゃまします。
Wikipedia によりますと、モデルメイトの必要条件に「攻め駒の全員参加」があります。ただし付帯条件としてKとPは参加しなくてもいいらしいです。
(将棋ではこの付帯条件を定義から外したほうがいいかも知れません。概念を単純化したいし、歩はPではありませんし。)
モデルから全員参加の条件を外せば、ピュアになります。逆に厳しくして「双方全員参加」とすると、イデアルメイトになります。これらも Wikipedia に説明があります。

No title

>redshiftさん
なるほど。
「ピュアメイト」=「玉の周りに攻方利き・壁駒重複なし」
「モデルメイト」=「玉の周りに攻方利き・壁駒重複なし」「攻駒全員参加」
「イデアルメイト」=「玉の周りに攻方利き・壁駒重複なし」「双方駒全員参加」
という関係なのですね。Wikipediaの記事も読みました。
詰将棋ではそれを表現する言葉がない概念に対して、チェスプロブレムにはそれをさらに細分化した用語があるというのは興味深い事実ですね。
しかもWikipediaに「モデルメイトはチェスプロブレムがartisticであるという価値を与える」とまで書かれていて、美しさの表現の追求という点ではプロブレムのほうが先を行っているのかも知れません。
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my cubeへようこそ。詰将棋のブログです。駒を並べてアートが表現できるって素敵なことじゃありませんか? 詰キストの方もビギナーの方も楽しんでいってください。

Author:鈴川優希
主に月刊誌「詰将棋パラダイス」に作品を発表している詰将棋作家。東京在住の学生です。詰将棋は小学生の頃から作り始め、2009年5月に詰パラ初入選。2015年12月に最年少同人入り(入選100回)。小~院すべての詰将棋学校で半期賞受賞経験あり。2016年4月より詰パラ連載「ちえのわ雑文集」の世話役に就任しました。原稿随時募集中です。

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2015年(第n回)・2016年(第φ回)に開催。使用駒数11枚以上、タイトル必須という条件で募集した作品を出題し、解答者に評価してもらうという企画です。結果発表はニコ生で行いました。作品の結果稿はブログ右袖のカテゴリーからご覧いただけます。なお、この裏短コンはほっとさんのブログ「詰将棋考察ノート」に受け継がれました。

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※81puzzler閉鎖につき詰将棋ウィークリーの記事にはリンク切れが多いです。

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