「フロント-リア型」バッテリーの形成は珍しいのか

全国大会へ行った時に、ふと思ったことを考察してみたいと思います。

私と看寿賞短編部門を同時受賞した、有吉作。


詰パラ7月号の選考過程を読んでみると、

バッテリー組み直しが主題で、これを実現している作は他にも候補作としていくつか挙がっていますが、本作が他と一線を画しているのはバッテリーが『手前の駒(15角)』→『後ろの駒(14龍)』の順で設置されているという点です。これがかなり珍しい。

とあり、これ以降も同様の表現が2回ほど登場します。
最初読んだ時は別に気にしなかったのですが、全国大会での受賞作解説の際もこの点が非常に強調されていたので、そこまで言われてしまうと疑義を唱えたくなるというもの。
というのも、珍しいというその根拠が「今年の看寿賞候補作の中では本作しかない」という、不確かなものである(ように読めてしまう)からです。
もちろん、実際は詳細な検討が行われているのだとは思いますが、どのくらい珍しいものであるのかは私としても気になるところです。

(念のため注意書きしておきますが、本記事は有吉氏の作品を批判したり、看寿賞選考員にいちゃもんをつけたりするためのものではありません。
作例がどのくらいあるのか、気になったので調べてみた、という性質のものです。)

まず、問題となる手順を一言で表現するのがちょっと難しいです。
バッテリー組み換えの際、「手前の駒」→「後ろの駒」の順で設置する、というものですが、ここではこれを「フロント-リア型」と呼びたいと思います。
バッテリーの手前の駒を「フロントピース」、後ろの駒を「リアピース」と呼ぶ方法は、詰パラでも以前使われたことがあるようです。チェスプロブレム由来なのかどうかは、私には分かりません。

それでは、まず私が真っ先に思い当たったフロント-リア型の作を一つ。


自作です。
初形では1つもバッテリーがない状況から、2つのバッテリーを作り、それをどちらも開くことで3つ目のバッテリーを形成(ここがフロント-リア型)、そして最後は3つ目のバッテリーも消して詰上りという内容です。
途中で98銀の邪魔駒消去が入るあたりも、うまくできていると思っています。
評点は2.86だったのですが、半期賞を逃すという惜しい一作でした。

このように自作に作例があるという点からも、フロント-リア型が「かなり珍しい」という説には素直に賛同できなかったという背景があります。
ちなみに、自作では他にフロント-リア型はありませんでした。

最近の例で言いますと、こちら。


先月のちえのわにご登場いただいた鳩森さんの作品。今月発刊のkisy一族作品集「青い鳥」にも収録されています。作者による解説はこちら→2019年1月号 中学校2 拾遺
内容としては、と金を軽く捌きながらバッテリーを組み替えるのが特徴です。収束は、有吉作をちょうど90度回転させたような印象があります。
もちろん有吉作のほうが発表は先ですので、念のため。

青い鳥には、他にフロント-リア型の作品はありませんでした。

さて、フロント-リア型の一般的な考察ですが、リアピースを後から置くということは、当然フロントピースの陰に隠れるわけで、それを実現するには

①リアピースの別方向への利きによって王手する。
②別のバッテリーのフロントピースが移動してリアピースとなる。

の二通りしかありません。
このうち①は、玉が別方向から移動して来なければいけないため、手数が少し長くなりそうです。
超短編で表現するなら、②がベターでしょうか。
この場合、わざわざ陰になるように開王手しなければいけない意味付けが必須で、それ次第で作品のおもしろさが決まってくるように思います。
そういう意味では、有吉作は龍の移動場所が多い中でわざわざ14を選ぶという意外性があり、看寿賞につながったのではないかと思います。

では、ここでフロント-リア型の最短手数を。


やや単調ですが、狙いのダイレクトな表現としては巧くできていると思います。角がスイッチバックするところも見逃せません。
本作は、借り猫さんのブログに載っていました。→限定移動集 その2

また、短編名作選を漁っていたら、こんな作品も見つけました。


……ム。自作と構成が似ている。紹介しなければよかったか 笑。

ちなみに短編名作選をパラパラとめくって探しても、フロント-リア型はこれ一作だけでした。
しかし、そもそもバッテリーの組み換えをテーマにしている作品自体が少なかった印象。
そう考えると、次のような仮説が立ちます。

・逆パターン、すなわち「リア-フロント型」は、どちらのピースの設置も「普通の王手」で可能。
・一方、「フロント-リア型」は、先述した①または②のような工夫をしないと実現できない。
・すなわち、「フロント-リア型」は、短編では必然的に②の採用が多くなるため、「バッテリーの組み換え」そのものを狙いとした作品でしかめったに現れない。
・これに対して「リア-フロント型」は、「バッテリーの組み換え」ではなく、単なる「バッテリーの作成」を表現した詰将棋では専らこれで、この作例は非常に多い。
・ゆえに、相対的に「フロント-リア型」が珍しいと錯覚しているのであって、「バッテリーの組み換え」をテーマとした作例だけで比較したら、「リア-フロント型」も「フロント-リア型」も、そこまで数は変わらないのではないか。

図で表すと、こんな感じです。


FRimage.jpg


「バッテリーの組み換え」カテゴリの中の、「リア-フロント型」と「フロント-リア型」の比率はどうか分かりませんが、大きく間違ってることはないように思います。
というのも、「フロント-リア型」の創作が難しいと思われている理由は、
「リアピースをわざわざ陰になる位置に移動させるのが難しい」
ということなのですが、「バッテリーの組み換え」カテゴリ内の話ならば、「リア-フロント型」も
「フロントピースをわざわざリアピースの利きを塞ぐ位置に移動させるのは難しい」
はずで、その困難の度合に大きな差はないはずです。

「バッテリーの作成」という広いカテゴリで比べてしまうから「フロント-リア型」がやたら珍しく見えてしまうのではないでしょうか。

なお、ここまで紹介した作品はすべてフロント-リア型②ですが、図の右下に小さく書いたフロント-リア型①にはどのような作品があるかというと、こんな感じです。


たった今私が急ごしらえした例題でなんのひねりもなく申し訳ありませんが、「フロント-リア型」には間違いありません。リアピース(31龍)を後から設置しています。
このような例なら、探そうとすればたくさん出てくるのではないでしょうか。

他にも、中編手数ならフロント-リア型②にこのような例が見つかりました。


「ミルキーウェイ」とタイトルが付いています。
これは、バッテリー組み換えが狙いというより、香の最遠打や歩香重ね打ちの虚々実々な攻防がおもしろい作品です。バッテリーの組み換えのみを切り取って紹介するなら、12手目の局面からの9手詰です。このように、香の陰に馬が回るような構図も、よく見かける気がします。

というわけで、結論になりますが、やはりフロント-リア型はあえて強調するほど珍しい構想ではないと思われます。
有吉作も、フロント-リア型を狙いとして作ったものではないでしょうし、評価されるべきポイントは他にあるといったところでしょうか。
ただ、バッテリーの組み換えというテーマを分析する上で、ある作品がどちらに分類されるのかを考えることは決して無駄ではないでしょうし、分類することによって見えてくるものもあるはずです。実際、私がこうして調べている間に、いろいろ勉強になりました。

作家の皆さん、ぜひ「バッテリーの組み換え」で一作作ってみませんか。

7/21追記
ここでいうバッテリーの作成およびバッテリーの組み換えは、フロントピース、リアピースともに作意手順中に設置するもののことです。どちらか片方だけなら相当条件が甘くなってしまうので……。

第35回詰将棋全国大会(大阪)

先週、大阪で開催された全国大会に参加してきました。
看寿賞受賞とのことで、交通費・宿泊費は全詰連に負担していただきました。

当日朝に東京から新幹線に乗って大阪入り。
全国大会も5回目となれば、勝手が分かってくるものです。
お世話になっている方々に軽く挨拶して回って、12時に開会。

今回は看寿賞の表彰でステージに立たせていただきました。
石黒さんにはイケメンな作品解説をしてもらいました。
また、同じく短編賞を受賞された有吉さんと席が隣どうしだったのですが、私の過去作をいろいろ褒めていただいて光栄でした。

今回の握り詰ですが、一つ抜け出た作があり、続いてセンスの良い作があり、残りは無難な作品、という印象。
握り詰の場合、どうしても収束をきれいに作るのが難しいと思うので、それをいつもなら中編にして捌きの手順でごまかすのですが、今年は手数制限のためそれも難しい。というわけで、作者の技量が如実に表れた気がします。
私は、在庫の中にぴったりのものがなければ、握り詰は投稿しません 笑。作れないので。

第二部では、恒例のミニ解答競争と、そしてクイズ大会。
解答競争は、32/60点といつになく好調だったのですが、予選突破ならず。後ろ2ページはほとんど手付かずでした。
クイズ大会は、7問正解。堀半七の問題を間違えたのがダメでした。
毎年、アトラクションの運営は大変かと思いますが、スムーズな進行で見習いたいところです。

その後は懇親会、二次会とご贔屓にしていただきました。
私が詳しく知らないスマホ詰パラ出身の若手の方々と話せたのが収穫かと思っています。
また、ちえのわ雑文集も、書き手が何名か見つかってよかったです。

翌日は、難波で久保さん、馬屋原さん、上谷さん、山路さんなどのメンバーといろいろな話をして過ごしました。
皆さんいろいろな引き出しがあって、話していて飽きないです。

今回、刺激を受けて、いくつかブログで書いてみたいネタもできましたので、またそのうち。
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my cubeへようこそ。詰将棋のブログです。駒を並べてアートが表現できるって素敵なことじゃありませんか? 詰キストの方もビギナーの方も楽しんでいってください。

Author:鈴川優希
主に月刊誌「詰将棋パラダイス」に作品を発表している詰将棋作家。東京在住の学生です。詰将棋は小学生の頃から作り始め、2009年5月に詰パラ初入選。2015年12月に最年少同人入り(入選100回)。小~院すべての詰将棋学校で半期賞受賞経験あり。2016年4月より詰パラ連載「ちえのわ雑文集」の世話役に就任しました。原稿随時募集中です。

裏短編コンクール
2015年(第n回)・2016年(第φ回)に開催。使用駒数11枚以上、タイトル必須という条件で募集した作品を出題し、解答者に評価してもらうという企画です。結果発表はニコ生で行いました。作品の結果稿はブログ右袖のカテゴリーからご覧いただけます。なお、この裏短コンはほっとさんのブログ「詰将棋考察ノート」に受け継がれました。

今週の詰将棋・
詰将棋ウィークリー

今週の詰将棋は2009年7月からの2年間100題。詰将棋ウィークリーは1012年3月からの50週は幻想咲花さんとのコラボ、それ以降は鈴川単独の出題で2014年3月まで、#100をもって終了しました。解答していただいた方に感謝します。
※81puzzler閉鎖につき詰将棋ウィークリーの記事にはリンク切れが多いです。

解付き出題
自作を解付きで並べていくだけ。現在#120をもって休止中。在庫整理の意味合いが強いので質より量です。

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