角銀繰り換え趣向を分析する

まずはこの作品を見ていただきたい。

詰パラ1983年8月
柳原裕司



中編名作選Iにも載っている有名な作品。
「角銀繰り換え」趣向の一号局だ。

本記事でははこの趣向の作例を網羅していくことにするが、それぞれの作品で着目すべき点は3つ。
①機構(縦型か横型か、角を開く場所はどうか)
②攻方龍の勢力の緩和法
③繰り換えの目的


この柳原作に関して言えば、
縦型。角を開く場所は48と15のみ。37玉から脱出されてはいけないので、このラインに角を利かしておかなければならない。
28飛を置いて玉の陰から間接的に利かせることにより、17玉の局面で26龍を防ぎながらも、開王手の邪魔はしないようにしている。
最終手を指すため、玉の腹に銀を配置したい。ということは、15に角を移動させなければならない。ということは、銀は35にかわしておかなければならない……(以下略)。繰り換えそのものが目的で、1サイクルの単発モジュールと見ることができる。

使用駒たった7枚で、今までにない趣向を実現したということろが評価されるべき作品。





この次に紹介したいのは、ついこの前発表した自作。
話の流れの都合上、発表順がごちゃごちゃになっているがご了承いただきたい。

詰パラ2020年1月
鈴川優希
「からくり時計」



30手目の局面。これが柳原作の2手目と同じ状態だ。
ここからの目的はやはり、銀を玉の左腹に据えることで、同様の繰り換え手順を辿る。
そして47手目46銀が柳原作の最終手。本作はここで終わりではなく、これを同桂と取らせ、角の利きを敵陣へ直通させることによって収束に入る。柳原作を見ていて、このような収束に結びつかないだろうかと考えたのが創作の出発点であった。

では鈴川作の前半はどうなっているか。47桂。これが邪魔駒である。
柳原作では、玉は龍の右側を往復するだけだったが、鈴川作では龍の左側も往復できる機構を作り出したことにより、邪魔駒消去というキーが追加できたというわけ。また、序では繰り換えの過程で33飛を35へと近づける逆算を入れており、これでもまた手数が伸びた。

では、「攻方龍の勢力の緩和法」はどうだろう。玉方38飛のような配置はしていない。これは当然で、収束が成り立たなくなるからだ。
それではどのように――つまり、例えば9手目36飛成の紛れをどう防いでいるか、というと、これは17玉がポケットになっていて、龍が近づいてしまうと26歩のせいで1筋に回れない、という簡単な仕組みだ。
逆側、すなわち25手目36龍の紛れなども、57玉がポケットになっていて逃れる。
この「ポケット」という発想により、例えば序で14角を25に繰り換えるだとか(17玉に13飛成を用意)、25手目から45銀を25に繰り換えるだとか(57玉に55龍を用意)、そういった新しい繰り換えの意味付けを生じさせている。
「角の開く場所」についても、14、25、18、45、63、58と、4方向でしかも長短の使い分けを取り入れることができたというのが主張点だ。





時代は遡る。角銀繰り換えの、2号局とされている作品を紹介する。

詰パラ1993年2月
明石六郎



明石六郎は「赤・白・黒」からきたペンネームらしい。
そんなことは置いといて、構造の分析に入ろう。

2手目の局面と38手目の局面を見比べてほしい。そう、44銀、これ1枚だけが煙のように消えている。
銀を消すには、35銀と引く足がかりが必要だ。そのためには、いつものパターン、腹銀の形にすればいい。柳原作と同様の手順で18手目に腹銀の形にし、44銀を消去した後はまるでカセットテープをリバースしたかのように一目散に元の状態に戻すのだ。

では、なぜ44銀が邪魔駒なのか。これは着眼点「攻方龍の勢力の緩和法」とも密接に関わりがある。
本作は25飛成に対しては17玉がポケット。いったんこうなってしまうと、もう打歩詰が打開できない。いつでも17には逃げられるのに、16に攻駒が利いていない状態で17玉とすると、18歩、16玉、25飛成で詰んでしまうわけで、つまり、攻めがきつくなってきてもう詰みそうというその瀬戸際の瞬間だけ、玉方は切り札として17玉のポケットを使うことができる。打歩詰の性質を利用した面白い構造で、例えば途中で34角や43角成と開王手してしまうと、16に利いてしまうので、これも17玉で逃れとなる。
だが、44銀がいなければ話は別だ。43角成、17玉に44馬と引いて詰み。これが邪魔駒消去の意味付けとなっている。馬作りの可否が銀の有無によって操作されるという仕組みが秀逸だ。

馬が作れた後は収束となるが、金合が出て軸となっていた飛車が消えるところはもちろん、ポケットの機構を作るために利用していた持駒の歩も、最後に頭に叩いてきれいに消化する。さらに、52とと58香の配置が巧く、角の移動場所を完全に限定している。
(柳原作は5手目59角も可。鈴川作は最後72、81角成や角生も可。それに対し明石作は43角成が限定である)
2号局にしてこの完成度は奇跡的。





詰パラ2001年10月
相馬康幸



同じく縦型の構図で、玉の陰から龍の睨みを利かせるパターンは柳原作と同じ。
しかし、今回は「腹銀の形」ではないところでキーが発動する。

ターゲットは44歩であり、これを回収するのが目標。37から逃げ出されないよう気をつけながらゴチャゴチャ動かしていると、15銀の形でたまたま44角と出られる。
ここからカセットをリバースして、最初の37銀の形に戻していく。これは収束で26龍、同龍、同角としたときに28に利かしておくためのもの。2手目の局面と34手目の局面を比較すれば分かりやすい。
後は回収した歩をポンと捨てて、それで詰上りとなる。

手順の流れとしては明石作によく似ているが、ちょうど表裏一体となっている構造。銀の位置に着目すると、

【明石作】
14銀手順A面腹銀<折り返しのキー:邪魔駒消去>→手順B面14銀 ⇒収束

【相馬作】
腹銀手順B面15銀<折り返しのキー:歩の奪取>→手順A面腹銀 ⇒収束

ということになっている。A面、B面のモジュール手順は、どちらの作品も共通で、A面は柳原作の作意そのものだ。

【柳原作】
15銀手順A面腹銀 ⇒収束





詰パラ1999年7月
山田修司
「回転銀」



平成11年度の看寿賞を受賞しているので、知っている方も多いと思う。初めての「横型」による角銀繰り換えだ。

手数は43手で、明石作や相馬作と同じくらいだが、趣向手順としてはA面のみ。つまり、縦型でいう腹銀の形(29銀)にして、相馬作と同じ収束の入り方をする。途中でキーとなる手が入ることはない。ただし序と、A面の前に1ステップ組み換えが入ることにより、手数を伸ばしている。

【山田作】
序(48龍設置)⇒ 27銀47銀手順A面29銀 ⇒収束

本作は発表年としては柳原作、明石作に続く3号局である。
内容的にはそれほど目新しいところはなさそうだが、先行の明石作を差し置いてこちらが看寿賞を受賞しているのは意外なところ。
いつかこの謎を若手詰キストと議論した記憶があるが、山田作には味良い序奏があり、さらに最後は都詰になることが評価されたのだろうという想像になった。
素材をどう料理するか、そしてどう味付けを施すかという点に、作家の個性が現れる。





詰パラ2013年4月
田島秀男



やはり最後に紹介するのはこれ。
好きな田島秀男の作品3つ、と言われたら必ず本作を選ぶだろう。(もう一つは四桂連合の香ハガシで、あと一つは悩ましい)

本作の構造は上の棋譜コメントと分岐棋譜であらかた説明している。田島秀男にしてはそんなに難しいものではないので、ぜひ読み解いてもらいたい。
角銀繰り換えの目的として、今までは邪魔駒消去だとか、質駒の回収だとかを見てきたが、本作は馬鋸を組み合わせているのが肝で、超長手数化に成功した。
それだけではない。
角銀繰り換え趣向として、「縦型と横型をスイッチする」機構が初めて実現されたのだ。

初めは縦型で、A面の手順で17銀の腹銀の形にすれば、16龍、36玉で横型に変形できる。
横型の状態からは、26銀・48角(or15角)の形にすれば、25龍、27玉で横型に変形できる。

このような縦・横のスイッチ機構がなぜ今まで作られなかったのかというと、ちゃんと理由がある。そこを解き明かすために、着眼点「攻方龍の勢力の緩和法」を考えてみよう。
田島作は玉方龍を陰から歯車の中心に利かせるという、柳原作・山田作・相馬作に共通する手法を用いている。しかし、この場合は問題が発生する。上記3作については玉の「陰から」の守備だったため、開王手の邪魔をすることはなかったのだが、縦・横スイッチ機構でこれをやろうとすると、必ずどちらか片方では龍が「直に」利いてきてしまい、角や銀で開王手した際に合駒されてまったく詰まないのだ。本作で言えば縦型のとき、66龍が26に直に利いてしまっているので、これがまずそうに思える。

この致命的な問題に対して、田島秀男は実にシンプルな答えを用意した。それが「全駒配置による合駒枯渇」だ。
柳原作では使用駒たったの7枚。これだけの図で考えていては、縦横スイッチング機構には永遠に到達できない。盤上に全ての駒を置いて初めて、成立の糸口が見えてくるのだ。
当然、それだけの駒を置くからにはなんらかの巨大なギミックが求められる。それが本作では馬鋸だったというわけだ。
数々の超長編の名作を物にしてきた田島秀男だからこそ、閃くことができたに違いない。

しかしながら、スイッチング機構を実現したからといって、それが実際に駆動するという保証はどこにもない。
本作では、馬鋸が動くのはどちらも「横型」の状態である。縦・横のスイッチングは攻方の意思で行われる以上、一旦「縦型」を経由してから「横型」に戻さなければいけない意味付けが必要なのだ。これがまた難しい。

その答えは、横型における17角/15角の組み換えだった。
91-37ラインの馬鋸を進めるには17角型、81-36ラインの馬鋸には15角型にしておかなければいけないので、この2つの状態を交互に組み換えるのが目的。
この程度の組み換えなら、従来の作品ならただ単にグルグルやっていればそのうちそうなる、くらいの感覚なのだが、本作の場合、24の地点にポケットが用意されている。
35玉に対して26角と出るときは要注意で、15に銀を置いておかないと、24玉で詰まなくなるのだ。だが、15に銀がいるということは、当然15角→17角の組み換えや17角→15角の組み換えがどうやってもできない。だから、24のポケットを気にしなくていい縦型を一旦経由する必要があるということ。
こんな離れ業を誰が実現できるだろうか。

馬鋸にしても、歩を回収するだけでなく、ちゃんと復路まで用意されている。
そして収束は、大量の歩を消費しながら50手以上を要して右上を淀みなく捌ききる。奪取した一歩が最後の最後で役に立つ瞬間がたまらない。
まさに、盤上に存在しうるありとあらゆる理(ことわり)を集結させたかのような、技巧の極致がここにある。





さて、全6作。角銀繰り換え趣向を取り入れた作品はおそらくこれで網羅できたはずだ。
(将棋ジャーナル1984年11月・堀田雅裕作などの軽作は他にもあるかもしれないが、ここに並べるような文脈の作品ではなさそうだ)

発表順は、柳原作→明石作→山田作→相馬作→田島作→鈴川作で、期間にして40年近い。
内容としても、系統的に進化が進み、この趣向を使ってでできることはだんだん出尽くしてきた感がある。正直、田島作のやっていることが異次元すぎた。

これだけの作品群を前にして、角銀繰り換えに今後の新しい展開はあるのだろうか。新進気鋭の作家諸氏に期待を寄せながら、本記事の筆を置くことにする。

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my cubeへようこそ。詰将棋のブログです。駒を並べてアートが表現できるって素敵なことじゃありませんか? 詰キストの方もビギナーの方も楽しんでいってください。

Author:鈴川優希
1997年生まれ。月刊誌「詰将棋パラダイス」に作品を発表している詰将棋作家です。詰将棋は小学生の頃から作り始め、2009年5月に詰パラ初入選。2015年12月に最年少同人入り(入選100回)。半期賞8回、看寿賞1回、詰将棋順位戦A級。2016年4月~2020年6月「ちえのわ雑文集」世話役を務めました。現在は入選200回を目指す傍ら、順位戦や短コンの解説をたまに担当しています。

裏短編コンクール
2015年(第n回)・2016年(第φ回)に当ブログで開催。使用駒数11枚以上、タイトル必須という条件で募集した作品を出題し、解答者に評価してもらうという企画です。結果発表はニコ生で行いました。作品の結果稿はブログ右袖のカテゴリーからご覧いただけます。なお、この裏短コンはほっとさんのブログ「詰将棋考察ノート」に受け継がれました。

今週の詰将棋・
詰将棋ウィークリー

今週の詰将棋は2009年7月からの2年間100題。詰将棋ウィークリーは1012年3月からの50週は幻想咲花さんとのコラボ、それ以降は鈴川単独の出題で2014年3月まで、#100をもって終了しました。解答していただいた方に感謝します。
※81puzzler閉鎖につき詰将棋ウィークリーの記事にはリンク切れが多いです。

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