詰将棋は「攻方は最短で」が正しい!?

詰パラ3月号のちえのわ雑文集は、谷川幸永さんにご登場いただきました。
かなりの内容が2ページに凝縮されているので、一読しただけでは少し伝わりづらい部分があったかと思います。
というわけで、このブログで少々補足というか、私なりに分かりやすく翻訳し直して書いてみたいと思います。

まず、取り上げられている話題は詰将棋のルールについて、です。
その中でも、「攻方最善」「攻方自由」のことに焦点が絞られています。
念のためちゃんと説明しておきますと、

「攻方最善」は、
攻方はできるだけ詰手数が短くなるように、そして同手数なら駒が余るように,、最善の手順で王手をかけなければいけない。
という立場で、

「攻方自由」は、
攻方はとりあえず玉を詰ますように王手をかけていく。玉方がどう応じても最終的な詰みが約束される追い方なら、いかなる順で王手をかけていっても構わない。
という立場です。

特に、「攻方最善」は、初心者向けの入門書などでは「攻方は最短手順で詰まさなければいけない」と書かれていることが多いです。

さて、このブログをお読みの皆さんは、「攻方最善」「攻方自由」どちらが正しい詰将棋のルールであるとお考えでしょうか。
おそらく、多くの方は「攻方自由」が正しい、と答えると思います。

しかし、実はその認識は正しくないどころか、詰パラは一貫して「攻方最善」を正式ルールとして採用している、というのが今回のちえのわ雑文集の趣旨なのです。





まず、「攻方自由」が正しいという認識が詰キストの間で広まっている理由について。

初心者向けに簡単に詰将棋のルールを説明する時に、「攻方最善」の原則が採用されることが多いのは、記述が簡単になり、啓蒙作品を扱うくらいならそれで支障をきたさないためだと考えられます。
攻方はできるだけ詰ませるように追う、玉方はできるだけ詰みから逃れるように受ける。
指将棋の感覚ともマッチした、実に簡単なルールです。

しかし、詰パラに載るような複雑な作品になってくると、この簡単な記述だけでは足りない場合が出てきます。
例えば、余詰作品や、迂回手順のキズがある作品。
もし、「攻方最善」のルールをそのまま採用してしまったら、余詰手順や迂回手順の解答は誤解扱いにせざるを得ません。
極端な話、早詰作品に至っては、作意手順を答えると不正解になってしまいます。
だから、正式なルールは「攻方自由」である。これが、多くの方の認識だと思います。実際、これでほとんど問題はありません。

(ここから数行は本旨と関わらない内容なので、読み飛ばしたほうが分かりやすいかも)
変化手順中の詰ませ方だけは「攻方最善」を採用する必要がある、という意見もあるかと思います。
というのも、これは変別解をバツにするためです。
より正確には、
玉方は、攻方が「攻方最善」の原則に従って王手をかけてくるのを見越した上で最善で逃げなければならない、
とでも表現しましょうか。どちらかというと玉方の応手に関する規定ですね。
でも、そう考えると我々に馴染み深い「攻方自由」の原則は必ずしも万能ではない気がしてくるのではないでしょうか?





さて、それでは、全詰連(全日本詰将棋連盟)の公式見解は、「攻方最善」「攻方自由」か、というところに迫っていきましょう。

全詰連が現在採用している公式ルールなるものは、「綿貫規約」と呼ばれています。
この規約は、1963年に制定されたもので、利波さんの温故知新というサイトで全文を読むことができます。→綿貫規約

非常に長い規約ですが、核となる第二条だけ引用します。


第二条(解法) 解法の基本は次の如く定める。

① 詰方の指手(着手)は必ず王手をかける形をとること。
② 玉方の指手(応手)は必ず王手をはずす形をとること。
③ 応手の尽きた状態を以て詰みとすること。
④ 詰方は提示の持駒の外に、中途入手の駒を使うこと。
⑤ 玉方は残り駒を合いとして使用できること。
⑥ 着手は最短手順を選ぶこと。(着手最短律)
⑦ 応手は最長手順を選ぶこと。(応手最長律)
⑧ 指手はすべて右の諸条件に対し必要かつ十分である手順をとること。(必要十分律)


注意すべきなのは、制定されたのが半世紀以上昔ということで、現行の慣習には則っていない部分が多いということです。
この条文では駒余りに関する取り決めが抜け落ちていますが、話を簡単にするために⑥⑦にそれぞれ
「攻方着手は駒余りになるものを優先する」
「玉方応手は攻方に駒を使い切らせるものを優先する」
という意味も内包させて考えるものとします。
すると、⑥はまさに「攻方最善」の原則そのものですね。

上で述べたような、不完全作があった場合に「攻方最善」を採用してはまずいのではないか、という問題については、出題は基本的に完全作に限る、ということで回避しています。
つまり、第二条の原則は完全作に対してのみの規定であるという解釈でいいでしょう。
また、第六条には、「本規約の各項以外に、出題側がその主催範囲に限定する内規を設けて、出題を解答に関する一部の変更をすることができる。」ともありますから、キズのある作や余詰作については担当者権限で作意手順以外の解答もマルにできるということです。

とにもかくにも、綿貫規約は「攻方最善」なのです。





さて、この綿貫規約ですが、やはり時代にそぐわない面が大きく、これを厳密に正式ルールということは難しくなってきました。
そのような流れの中で、1999年11月に新たな規約案が詰パラ上で公開されます。
通称、「川崎規約案」
哲人といわれた川崎弘氏が中心となり、全詰連に設立された規約委員会によって議論を重ねて制定されたものです。

詰パラ1999年11月号がお手元にある方は、それを参照なさってください。
全文をスキャンした画像データを作ったのですが、それをこのブログで公開してしまうのは著作権的にどうかと思うので、今は自粛させていただきます。
例によって、核心部だけ引用します。


第六条 〔着手における優位順〕
次の各項でこの順に上位にある着手を優位とします。
一、手数 より短く詰めうる手順
二、駒余り 詰上りに持駒が余る(これを《駒余り》といいます)手順
三、難易度 より詰め易いと思われる手順

第七条 〔応手における優位順〕
次の各項目でこの順に上位にある応手を優位とします。
一、手数 詰方が最短で詰めた場合に、詰上りまでにより長くかかる手順
二、駒余り 同手数なら詰上がりが駒余りとならない手順
三、詰め手段 前二項が同じなら詰める手順が1つに限定される手順
四、その他 難易度(より詰め難いと思われる順)、詰上がりの駒数(少ない方)、作図意図との合致などを併せ考慮
なお、第六、七条の優位条件は、本手順に限らず、変化、紛れなど全ての着手系、応手系に適用します。


この後に、作意手順の決め方やキズの扱い方など、事細かな規定が並んでいきます。
綿貫規約よりも慣習に即しつつ、実用に向いた条文でなかなか分かりやすいです。加えて、


第二十二条 〔解答者の義務〕
出題図が第三章の諸規定により作図されていることを前提に、解答者は以下の各項に従い、解答します。
一、詰みの発見
全ての応手が詰みに至る順の確認
二、代表手順の選定
前項の手順群のうちから、第二章の基準により代表手順を選定
三、解答の単記
解答としてその順を単記
なお、評価など出題者が特に要求した事項を除き、変化や感想などの付記は自由とします。

第二十三条 〔最善順の確認努力〕
解答者は前条一項の《詰みの発見》の過程で、第二章による、より最善に近い詰手順がないかの確認に努めるものとします。


という、解答の規定と、


第二十八条 〔審査条件の緩和〕
第二十六条の基準によれば×になる解答であっても、以下のいずれかの場合は×条件を緩和し、○とします。
一、×解に至ったのが、作品側の欠陥またはそれに準じたものに起因すると認められるとき
二、第二十三条の要求が解答者にとり過重な負担と認められるとき

第二十九条 〔緩和の適用〕
前条により、余詰順、早詰順、着手系キズ順、誤作意作での正しい本手順、変同順などは、それらの順も作意に準じたものとみなして審査します。作意不詰作は、無解や誤解を含め、全ての解答を○とします。


という解答審査の規定も、実に分かりやすいものになっています。

とにかく、第六条にある通り、この川崎規約案も「攻方最善」を採用しているのです。
第二十八条、第二十九条によって、「攻方最善」の問題点をクリアしているのが見事ですね。





この川崎規約案ですが、「案」とついているように、全詰連がこれを正式規約としているわけではありません。あくまで建前上は綿貫規約が正式なものです。
ただ実際には、2000年以降、どうやらこの川崎規約案に従っていると考えられます。

その例として、ちえのわ雑文集に取り上げられている詰パラ2014年11月号の記事「詰将棋ルール審査会(第1回)」があります。
これは詰パラ上で出題された3手詰に対し、変同手順中で分岐して5手で詰ませた別解が多発し、それを○とするか×とするか、規約委員会が議論したものです。
いわゆる変同余詰というやつです。もちろん、3手詰の変同なので、通常はキズとは扱われないのですが……。
結論として、この5手の解答は正解扱いとなりました。
この裁定を、ちえのわ雑文集で谷川さんは「川崎規約案に従ったもの」として解釈しているのです。





というわけで、全詰連が採用しているのが綿貫規約であれ川崎規約案であれ、
現行の詰将棋の正式ルールは「攻方最善」であるということが分かりました。

「攻方自由」が正しいと信じて疑わなかった方にとっては、驚くべき事実だったのではないでしょうか。

もちろん、単に「攻方最善」と言っただけでは語弊が生じます。
川崎規約案のような、緻密な条文を出して初めて「攻方最善」がその意味を発揮するのです。
その点では、「攻方最善」「攻方自由」、どちらを採用したほうがより簡単なルール制定に向いているのかは微妙なところではあります。
「攻方自由」で議論したほうが直感的に分かりやすい、という状況もあるはずですからね。

重要なのは、とにかく先入観をなくすこと。
どちらか一方が正しいんだ、という思い込みが一番いけないのです。

このように、詰将棋のルールの根本となるところでさえ見解が分かれている現状なので、無駄合などの複雑な場合に至っては、ますます混乱を招きます。
規約談義をする際には、こういった「躓きの石」がそこらじゅうに潜んでいるものだと覚悟して臨むべきでしょう。





と、いうのが3月号のちえのわ雑文集の内容でした。
念のため断っておきますが、私はここで「攻方最善」「攻方自由」どちらが優れているかという話をしているわけではありませんし、無駄合などの規約談義をしたいわけでもありません。
それ以外のことで感想・ご意見などありましたら、ぜひお気軽にコメントお願いします。

私としては、全詰連がいつでも参照できる形で川崎規約案をネット上などに掲載しておくのがいいかと思うのですが、どうでしょうか。

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変別問題は、感情的になるケースが多いですね(私は、自分が変別解を答えたらお願いですから×にしてと思うタイプです。そんなんで○にされたら恥ずかしいから。×の方がなんか燃えてきませんか)。
私は、無解だった人(解答競争に力を入れているが前提)から、変別解○主張はどう見えているのか、という事も考えていく必要があるのではと思います。
また担当者権限という文言がありましたが、発行者権限かと思います。詰パラ誌の一言一句に責任を持つ立場ですので。ですから例え担当者が起こした大きな過ちでも、読者サロンにプロ棋士への暴言が載ったとしても、問題があれば当然発行者(株主や役員もかな)が責任を取り(謝罪をする等)、必要があれば頭を丸めることになります。
ですから作品の完全性、解答の審査において最終判断は発行者が決定するべきでしょう。結果は全て自分で負わなければならないのですから。ただしその権限は発行している誌面内のみなので、他誌がどんなルールを使おうが、判定をしようが止める権利はさらさらないでしょう。
気軽にコメントしてみました。

No title

変別○×論争は、これはまた今回のテーマとは別に議論の歴史を探る必要がある話題ですが、現在の詰パラでは変別解は一貫して×扱いになっているようです。
川崎規約案に基づけば、場合によっては変別解も一応○とすることも可能に思われますが、実際にそのように判定された例を2000年以降に見た記憶がありません。ご存知でしたら教えてください。
そもそも、現代において変別○を主張されている方がどれほど残っているのか分かりません。

また、「担当者権限」のフレーズにつきましては、綿貫規約で「出題側」とされているところを私が「担当者」と読み替えたものですが、厳密には「発行者」ですかね。
ただ詰パラにおいては「担当者」が全面的に解答審査を請け負っており、もし不備が後から発覚した場合は「担当者」が読者サロンなどで謝罪しているのをよく見かけますから、まあ同じようなものかと思います。もちろん、編集部と相談はしているかと思いますが。
面倒なので、綿貫規約の文面通り「出題側」と書いたほうが良かったですかね。印刷物でない場合は、「発行者」という表現もおかしいので。
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my cubeへようこそ。詰将棋のブログです。駒を並べてアートが表現できるって素敵なことじゃありませんか? 詰キストの方もビギナーの方も楽しんでいってください。

Author:鈴川優希
主に月刊誌「詰将棋パラダイス」に作品を発表している詰将棋作家。東京在住の学生です。詰将棋は小学生の頃から作り始め、2009年5月に詰パラ初入選。2015年12月に最年少同人入り(入選100回)。小~院すべての詰将棋学校で半期賞受賞経験あり。2016年4月より詰パラ連載「ちえのわ雑文集」の世話役に就任しました。原稿随時募集中です。

裏短編コンクール
2015年(第n回)・2016年(第φ回)に開催。使用駒数11枚以上、タイトル必須という条件で募集した作品を出題し、解答者に評価してもらうという企画です。結果発表はニコ生で行いました。作品の結果稿はブログ右袖のカテゴリーからご覧いただけます。なお、この裏短コンはほっとさんのブログ「詰将棋考察ノート」に受け継がれました。

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今週の詰将棋は2009年7月からの2年間100題。詰将棋ウィークリーは1012年3月からの50週は幻想咲花さんとのコラボ、それ以降は鈴川単独の出題で2014年3月まで、#100をもって終了しました。解答していただいた方に感謝します。
※81puzzler閉鎖につき詰将棋ウィークリーの記事にはリンク切れが多いです。

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