詰パラ 入選150回 大学

詰将棋パラダイス2019年5月号

大14 入選150回
東京都 鈴川優希

35-8.png泣斬馬謖きゅうざんばしょく




詰パラの結果稿では棋譜の参照記号が抜け落ちていたり、作者コメントが中略されたりして言いたいことが伝わりにくくなっている(そして誤植もある)ので、ここでしっかりと解説しておきます。
久しぶりの構想作なので、少し気合を入れて。

まず初手はどう考えても69銀だろうということで、ここから考えてきます(図1)。

35-8fig01.png図1

ここで玉方の持駒は金銀歩しかありません。ろくな合駒ができないので、55地点に移動合して受けるしかないのですが、例えば55桂跳ですと同香、同馬、同龍以下詰みです。
というわけで、55への利きを増やすため、いったん58桂成と捨てておきます。これは自然な応手です。
同香となって図2

35-8fig02.png図2

ここで55桂跳ですと、44龍と捨てるのが好手で、同玉に56桂と両王手をかけます(図3)。

35-8fig03.png図3

53玉と戻るのは65桂の1手詰ですし、33玉は42銀生、32玉、41銀生、33玉、34歩、同玉、24と、35玉、25と迄の詰みが簡明です。
したがって、55桂跳の受けは詰んでしまうことが分かりました。

35-8fig02.png図2再掲

というわけで図2に戻って、55角成もしくは55馬と受けることになりそうです。どちらが正解なのかはまだ判断できませんが、とりあえず55角成としておきます。以下、44龍、同玉、56桂、53玉と同様に進んで、65桂を同馬と取ることができるのが55角成の効果です。
続いて、64桂と跳ね出したところが図4

35-8fig04.png図4

この局面で、玉方は困っています。というのも、何か合駒をしたとして、次に52桂成、同香、54歩、同馬、42銀生までの詰みがなかなか防げないからです。
唯一の手段は、取歩駒である馬を自ら消しに行く、56馬!という手です(図5)。

35-8fig05.png図5

しかしこれも、その場しのぎの応急策でしかありません。同香と取ってみれば、玉方はまた合駒に困ります。前に利く駒は渡せませんから、55桂打などと粘るしかありませんが、同香(次に65桂迄の詰み)、同馬と進み、結局は52桂成から54歩と打たれてしまうのです。これでは、避けようがありません。

というわけで、もうお気づきかもしれませんが、少し戻って図2の局面では55馬と、こちらで移動合するのが正解です(図6)。

35-8fig02.png図2再掲

35-8fig06.png図6

44龍、同玉、56桂、53玉、65桂、同馬、64桂、56馬で図7

35-8fig07.png図7

同香に55角生!(図8

35-8fig08.png図8

これなら、52桂成、同香に54歩が打てません。
後から角生として打歩詰に誘致するために、先に馬で移動合して、その馬を捨てる。玉方馬先馬角が狙いでした。
角の連続移動合という派手な手順の中に構想を組み込んだことに価値があると思っています。

ちなみに、タイトルの「泣斬馬謖」ですが、十八史略(つまり三国志)の故事成語です。「泣いて馬謖を斬る」とも言います。

馬謖は中国の三国時代の蜀(しょく)の武将で、諸葛亮(しょかつりょう)の信任をうけて参軍した人物である。 馬謖は街亭の戦いで命令に背き、戦略を誤って魏軍に惨敗した。 諸葛亮にとって馬謖は愛弟子であるが、軍律の遵守を最優先させるため、命令に背いた馬謖を斬罪に処し涙した。 この故事から、規律を保つためには私情を挟まず、違反者を処分するたとえとして「泣いて馬謖を斬る」と言うようになった。

19馬が馬謖。愛する臣下を泣く泣く斬り捨てる場面(56馬)をイメージして命名しました。

さて、解説に戻ります。メイン部分は馬先馬角ですが、この後もいろいろ仕掛けがあります。
とりあえず図8の局面から同香、同桂と取ってしまってから考えます(図9)。

35-8fig09.png図9

どうにかして歩を打とうと画策するなら、次のような手段が思い浮かびます。52桂成、同香、86角(図10)。

35-8fig10.png図10

86角が明らかに非限定なので、作意ではない感はありますが、有力な順です。
しかし、75桂合、同角、同飛生!、65桂、同飛で、これは惜しくも詰みません。

図9に戻って、今度は35角と、こちらから打ってみましょう。これには44香合(図11)が最善の受けとなります。

35-8fig11.png図11

以下、同角、43玉、65角、54飛合(他合は33角成、同玉、34香で詰み)となって、まだまだ手は続きますが紙一重で逃れています(図12)。62角成には47桂打合、また55角には45桂合です。

35-8fig12.png図12

それでは、どこがいけなかったのでしょうか。岐路は55角生の局面、図8にあります。

35-8fig08.png図8再掲

ここで、先ほどは同香、同桂、35角に44香合で逃れました。
この香は、攻方が今渡したばかりの香です。そして、玉方の駒台には、他に香はありません。
つまり……この55角を取って香を渡してしまう前に、あらかじめ35角と合駒を訊いておけばいいのです。これには44桂合が最善となります(図13)。

35-8fig13.png図13

ちなみにこの35角は限定打で、17角ですと26歩合、同角、44桂合、55香、43玉で逃れとなります。まあ、わざわざ17から打つ人はいないでしょうが。

図13から、55香、同桂、44角、43玉、65角、54飛合と進んで図14

35-8fig14.png図14

図12と比べて、持駒が香から桂になっていることが分かります。
(それによって33角成、同玉、34香の筋がなくなっているのでこの54合は飛でなくてもよさそうですが、結論から言うと飛が最善です。理由は後述)

35桂、32玉、54角で図15

35-8fig15.png図15

ここで43合はどのように攻めてもボロボロに詰むので、41玉の一手。
いよいよ収束です。32角成!、同玉、33角成!、同玉、34飛!、同玉、24と、35玉、25と迄35手詰(図16)。

35-8fig16.png図16

メインの構想部分で活躍した角2枚に加えて、合駒で奪った飛までも連続で捨てての詰上りは気持ちいいかと思います。
収束というのはかくありたいものです。

ここからは補足です。図14では54飛合としていましたが、代わりに香合とした局面が図17

35-8fig17.png図17

作意と同じように、35桂、32玉、54角以下の順で詰みます。最後に34に捨てる駒が飛から香車に変わるだけです。
では、ここの合駒は非限定なのかというと、そんなはずはなく。
図17で、55角が見えにくい手。いろいろな応手が考えられるので面倒ですが、例えば44銀合ですと、同香、32玉、54角、43歩、33銀、同玉、43香成みたいな感じで、いずれも作意より短い手数、もしくは同手数駒余りで割り切れています。
作意のように54飛合としておけば、55角には45香合、同香、34玉とかわして逃れているわけです。
解答者の中には、ここの飛合、香合を間違えて誤解した方が多いように思われます。
変別含みの割り切り方(しかも煩雑)なので、ちょっと申し訳ないのですが、しかし実は誤解に気付くことが可能なタイミングがあります。

35-8fig18.png図18

図17から35桂、32玉、54角と変別順に入ってしまった局面が図18
41玉なら32角成以下きれいに詰むのですが、ここで43飛合が非常にいやらしい合駒となります。
ありとあらゆる王手が詰む、といっても過言ではない状況なのですが、不思議なことに、どれだけ頑張っても37手かかってしまいます。つまり、変長なのです。
これはおかしいぞ、ということを直感した方は、図17まで戻って55角という割り切り方に気付き、54は飛合だという結論に到達できるものだと考えられます。
飛合の作意順なら、図15において43飛合は売り切れなので、この変長の問題は解消されるのです。

35-8fig15.png図15再掲

作家目線から言うと、この43飛合という変長順を消すために、どうしても盤上どこかに飛を1枚置かなければいけませんでした。
いろいろな方法を検討したのですが、79飛として置くことによって、①初手~2手目の応酬が逆算できる、②図10の紛れが飛生で逃れる、という2つの活用法を見出せることに気付き、これに落ち着きました。
創作の過程で盤面が広がっていった背景にはこのような経緯があったのです。

それではここで、動く将棋盤で作意を並べておきます。ついでに、結果稿の一部も。



誤5 無8
A18 B4 C1
平均2.73

竹○健一―成生決定の余地を後に残す55馬と、56馬~55角生とか、すごい技を繰り出してくれますね!
占魚亭―体を張った馬のガードから打歩詰誘致の角不成の流れが素晴らしい!
○下誠―びっくり箱のように変則合が飛び出すが、最後は大駒を捨てきって鮮やかに収束する。



創作過程について少し書いておきたいと思います。
おそらく、作り始めてから完成まで5年ほどかかっています。
原図は実は13手詰。


エッセンスだけを抽出したような図です。
角2枚を移動合して、それをパクパクと取って、2枚とも捨てて詰上り。ストーリー性としては充分かと思いますが、いかんせん13手にしては駒が多すぎます。収束用の34歩・35香の配置もダサい。

最終手が44歩迄の突歩詰になったらちょっとはいいかも……と思っていたら、それは10手目65飛合という手があるので、手数が長くなってきそうです。
ただ単に詰めばいいわけではなく、角連続合のテーマでやるからには、収束はどうしても角を2枚とも消さなくてはいけないという意地があります。
そうして見つけた新しい収束の図がこちら。


発表図にちょっとずつ近づいてきた感じでしょうか。
23手目、24飛迄で詰みというように短く切りたかったところですが、18手目の33合がどうしても割り切れずに苦戦します。ここの変長は、この段階から曲者だったわけです。

そしていろいろ試行錯誤し、欲張って収束に飛も捨てられるように作ったのが次図。


ここまで来ると、発表図までもう一息です。
ちなみにこの図は、詰上りからの逆算で作っています。
私の使う常套手段、つまり、「再構成逆算」です。

正算で収束をつける場合、盤上で駒を動かしながら収束手順のイメージをしたら、いったんその図を忘れて、詰上りからの逆算で一から作り直すのです。これが再構成逆算です。
すべての詰将棋は、逆算で作ることができる。そして、逆算で一から作れば、不合理だった配置が整理されて手順成立の条件も理解しやすくなる。こういったアイディアに基づいた手法が、私の提案する再構成逆算なのです。
私の創作手法については、またいずれ詳しく書いてみたいと思います。

とにかく、収束で角角飛と捨てる図に行き着いたわけですが、この図で注目すべきポイントは、玉方36歩という配置です。
36歩の何がいいのかというと、これによって、さらなる逆算の道筋が開けているのです。

35-8fig19.png

上の図から2手逆算すると、こうなります。
56桂はただの両王手ですが、実はこの手、5筋の香車のラインを止める手なので、現実的にはなかなか入りにくい逆算です。36桂と跳ねるほうが普通は有利だからです。
それを可能にしたのが、36歩。詰上りでの単なる壁駒として置いた歩が、こんなところでいい働きをしてくれました。

この2手が入ればしめたもの。
さらに逆算して、ついに発表図を得ました。

こうして見てみると、発表図のメインの構想である馬先馬角は、実は創作の最後の段階になって逆算で追加されたものなのでした。
私は普段、構想作を作らないというか、なかなか作れません。
大概は逆算がメインで、逆算によって狙いの手順を入れるという方法をとっています。
今回はその手法がとてもうまく働いた例でした。



当初の予定以上に長々と書いてしまいました。
まあ、長い間温めてきた作品なので、愛着はあります。
作っている途中のどこかの段階で満足してしまったら、この発表図に行き着くことは絶対にありませんでした。
これ以上よくなるアイディアが浮かばない、といった場合でも、年単位で寝かせておけばある時ひらめくことがあるものです。
ともかく、この作品を納得のいく形で世に送り出せて満足しています。

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my cubeへようこそ。詰将棋のブログです。駒を並べてアートが表現できるって素敵なことじゃありませんか? 詰キストの方もビギナーの方も楽しんでいってください。

Author:鈴川優希
主に月刊誌「詰将棋パラダイス」に作品を発表している詰将棋作家。東京在住の学生です。詰将棋は小学生の頃から作り始め、2009年5月に詰パラ初入選。2015年12月に最年少同人入り(入選100回)。小~院すべての詰将棋学校で半期賞受賞経験あり。2016年4月より詰パラ連載「ちえのわ雑文集」の世話役に就任しました。原稿随時募集中です。

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