詰パラ2019年9月号雑感

ブログに詰パラ雑感を書くのは久しぶりです。
今月号では注目したい作品が多く、1つの記事にするだけのネタがあるなと思ったので。


・大学
自作が入選。私には珍しい簡素形です。こんなのじゃボツになるかもと思って投稿したのですが、ありがたいことに採用してもらえました。解くのは骨が折れるので、腕自慢の方はよろしくお願いします。

・アマ連握り詰
武島作はなんでこんなことが握り詰でできるんだと驚いてしまう作品。馬屋原作はセンスが光る作で、全国大会の会場でこの2作を見て感心していました。

・ちえのわ
太刀岡さんには担当者なら書けるよねと押し付けたような形になってしまいましたが、お願いしてよかったと思いました。
現在、年内は枠が埋まっていますが、それ以降は未定ですのでネタのある方はぜひご連絡ください。

・A級順位戦結果稿
ギリギリのところで降級を回避しました。私としてはかなりよくできた部類だったのですが、やはりこういうものは順位戦では伸びにくいようです。作品の詳細は別記事で。

有吉作。角の最遠移動は去年の看寿賞候補にもなった同氏の中学校の作品が記憶に新しく、いろいろ試した中でこの作品も派生したということでしょう。本作は最遠移動の後にこんなにも捨駒が入るのかという驚きがあって、構成も完璧。よくある表現を使わせてもらうなら、このタイプの最遠移動の決定版といった印象で、今年の看寿賞も有力ではないでしょうか。

・B級順位戦結果稿
解説を担当しました。分かりやすい解説ができたと思って悦に入っているのですが、書きそびれたこともあるのでこの場で補足を。

武作。2手目14桂合は作者自認の変同、と書きましたが、実際のところ作者は「変化中25桂合の逆王手は無駄合グレーゾーンだと思っているが、もし有効合だったとしたら変同でこれはしょうがない」、という判断で投稿されていました。私としては、どこにも無駄合と主張できる要素がないと思いましたので、スペースの都合で深入りすることなく変同という扱いにさせてもらいました。
変同のせいで混乱した解答者が多く、バツにするのは忍びないなあと思う解答もあったのですが、点数をシビアに競う順位戦の場ということで、作意と変同解、変同余詰解以外は誤解と判定しています。

則内作。「初手も最終手も44龍のおまけつき」と解説には書きましたが、投稿用紙に記載はなく作者が意図していたのかどうかは不明です。でも私はこのような形式的なところに詰将棋としての価値を見出すタイプなので、解説で必ず触れておきたいと思ったポイントです。

芹田作と馬屋原作は評点がまったくの同点でしたが、昨年の順位の差で馬屋原さんが昇級。ちなみに、昨年のC級順位戦も私が解説したのですが、ここでもまったくの同点が出て、今回のB級坂田氏が昇級しています。

小林作。解説で引き合いに出した4月号高16石川作は次の通り。
せっかくなので、今回の小林作も並べておきます。




この2作をよく見比べていただきたいと思います。
小林作(下)は収束で飛車が消えないことが不満だと解説に書きましたが、先行の石川作は最遠移動で行って帰ってきた角を収束に消していることが大きな違いです。
また、石川作は「作意中で歩を打たない」ことも見逃してはいけません。

「持駒に歩がない状態での打歩関連手筋」は打歩詰作品の一大テーマだと私は考えていて、
(1)打歩詰になるという未来が見えていない段階での攻防なので、意外性・深みが増す。
のはもちろん、
(2)歩を打つ手およびその前後の緩みを変化に隠すことができ、作意手順を濃密にできる。
という利点があります。
特に(2)の利点は短編においては重要で、第n回裏短コンで優勝した「欺きの一角獣」が好例ですし、今回のB級順位戦でも則内作がそれにあてはまります。
石川作と小林作を比べてみても、歩と桂を単に打って収束する小林作に対し、石川作は歩を打つ手を省略することによって同じ13手という中で捨合、角捨、移動合を詰め込むことに成功しています。

では、小林作が優れているところはどこか?と考えますと、やはり配置の良さが挙げられるでしょう。
使用駒数で比較するとほとんど違いはありませんが、小林作は6×6に収まっている状況から最遠移動が出るというところがミソで、舞台装置が優秀といえます。このあたりの作図感覚は、数々の名作短編を生み出してきた小林氏ならではといったところ。
4月号で出題された石川作を解いて、これは飛にしたらおもしろいのではと考え、ひと月で作って即座に投稿。そんな小林氏の瞬発力を見習いたいです。

・C級順位戦
まず柳澤作がすごい。打ち捨てで馬をこの軌跡で3/4回転させるものは図巧75番や詰パラ2015年2月中学校の三輪作くらいしか前例がなかったはずで、私も作ってみようとして挫折したくらいには難しい条件です。今回の柳澤作は最後の馬捨てが素晴らしい。実現させただけで拍手喝采の手順です。
配置が嫌われて降級してしまいましたが、私としてはこの手順をやるならこれくらいの配置は必要だろうなと思ってしまいます。

天内作。これはいい逆算で、金合を出せたのが素晴らしい。31銀さえなければ。

三輪作。最遠移動からこんな収束につながるなんて。逆算で作っているのでしょうが、よくこんな初手が入ると思ったものです。

・同人室
三輪作。


作者コメントによれば、「取歩駒を発生させてそれを捨てさせて持駒にするのが構想」とのこと。「この構想は初めてとは思いませんが見た事はありません」ともありますが、これはついこの前武島さんが発表したばかり。


さすが武島さんという感じで、最低限の配置で狙いだけをスマートに表現しています。
あんなに駒を置いてやっと成立させた三輪さんの感想を聞いてみたいのである。笑

おそらく三輪さんは作者コメントにもある通り、構想よりも演出にこだわって仕上げたのだと思われますが、同じ構想で演出がもっとおもしろい作品もすでにあります。


攻方が森田手筋を目論んだところ移動合で取歩駒に逃げられるところまでは同じ。本作はその後もう一度森田手筋をやって、龍のアンピン(55龍捨)で森田手筋が成就するというストーリー。さすが本職の構想作家は違いますね。三輪作・武島作と違って移動合した角を取らずに構想に再利用するところが巧いです。

ところで、武島作と井上・久保作は詰パラの同じ号のデパートで同時に発表されています。担当者は「新構想(恐らく)ゆえ、発表順で不利にならないよう同時選題とした」とのこと。
この2作は『この詰将棋がすごい!2019』でも紹介されていて、久保さんの解説が読めるのでぜひご覧ください。
その久保さんは、今回の三輪作に対して「森田手筋に対して取歩駒を逃す移動合で受ける構想を歩がない局面で実現したのが主張点でしょうか」と結果稿でコメントしていて、確かにこれは武島作や井上・久保作には見られないポイント。先ほど私が小林作・石川作のところでも考察したように、持駒に歩がない状態で打歩をめぐる攻防をすることにはそれなりの価値があると思っています。
しかし、2つの価値
(1)打歩詰になるという未来が見えていない段階での攻防なので、意外性・深みが増す。
(2)歩を打つ手およびその前後の緩みを変化に隠すことができ、作意手順を濃密にできる。
に対して、三輪作は結局作意で歩を入手して打つことになるので、主張できるのは(1)だけでしょうか。
もっとも、作者コメントでは「歩がない状態で」ということに関してそもそも触れられていないため、三輪さんよりも久保さんのほうが作品を正確に分析できているような気がするのである。笑

金子作。これはブルータス手筋が構想というよりも、バッテリーのフロントピースの位置を変える構想と考えたほうがよさそう。今までありそうでなかったアイディアで、今後どんどんおもしろい作品が出てくるのではないかと思います。本作は馬が邪魔駒という意外性の演出が巧く、ぜひとも記憶にとどめたい作品。

鈴川作。心理的な難しさがあって無解者が多かったですが、解けた方には狙いが伝わったようで何よりです。また別記事で。

ところで話は変わりますが、私は結果稿に自分の作者コメントをできるだけ載せてほしくないというのが本音です。今月は順位戦でも同人室でも私のコメントが長々と載ってしまっていますが……。
私が投稿用紙にコメントを書いているのは、自作を採用してくださいと担当者にアピールするためというのが一点、そして作品の狙いを担当者に正しく伝えるためというのがもう一点です。
担当者に向けて書いたメッセージのはずなのにそれを誌上で長々と公開されてしまうと、作者が自分の作品について求められてもいないのにペラペラと饒舌をふるっているようで、私としては非常に気恥ずかしいのです。
作品の狙いを正しく理解した上で、それを読者に対して客観的に伝えて批評をするのが担当者の役割だと思っています。そのため私が結果稿を書く側に回った際は、できるだけ作者コメントの引用を避けて自分の言葉で解説しているつもりです。
もちろん解説のやり方は人それぞれ、自由なのですが、自作に対して自分があれこれ語っている結果稿を読んでも作者はちっともおもしろくないのです……。
そんなに嫌ならあらかじめ投稿用紙に引用するなと書いておけばいいじゃないか、と言われるかと思います。一時期そういう但し書きをしていたこともあったのですが、それはそれで採用されることを前提にした傲慢な態度である気がしてやめてしまいました。せっかく自作を解説してくれる方に対して、こちらから事前に解説の仕方に注文を付けるというのは、なんだか気が引けるのです。
身勝手な悩みだとは思いますが、どうするのがベストなのでしょうか……。

話を同人室に戻して、海老原作。


解説では禁じられた遊び手筋だと書かれているので、このブログの禁じられた遊び手筋リストにまた新たな作品が加わった……かと思ったのですが、本作、本当に禁じられた遊び手筋ですか?
まず短評にある「『禁じられた遊び』テーマとするため59角~39飛で焦点を8段目に持ってゆく」という解釈は誤りで、59角はただ単に攻方飛の縦の王手を遮らないため(かつ、77に活用できる)、という意味付けだと思います。作意手順中の48桂成も、焦点へ中合して角の利きをブロックするのが目的ではなく、単に飛車を近づけるためのものです。
また解説には「10手目単に46桂合だと45歩、34玉、39飛に対し38桂と打てないので銀を合駒せざるを得ず詰む。そこで48桂成~46桂合として45歩なら34玉のとき38飛を取ってしまうわけだ」とありますが、10手目46桂合の変化で38桂合が打てないのは八段目だからという以前に桂馬が売り切れだからです。
百歩譲って、桂馬を玉方がもう1枚持っていたとしたら確かに八段目のおかげで打てなくなるのですが、それはただ単純に「変化の一つで八段目桂合禁止のため詰むようになっている」だけであって、桂合の可否を巡って攻方・玉方が何か策を講じるわけではないので、禁じられた遊び手筋とは言えないような気がします。(直接の38桂合がダメなので46桂合から38桂成の移動合で八段目桂合を可能にする、などといったストーリーなら禁じられた遊び手筋に間違いないのですが)
もっとも、作者は何か一つの構想を狙って作っているわけではなさそうなので、禁じられた遊び手筋になっていないからといって本作の価値が落ちるとは思いません。ただ、作品に対する誤った理解は避けるべきだという話でした。

・創棋会作品展
谷本作。これがおもしろいです。最初と金を27に誘導するために、わざわざ角1枚捨てて26→27と迂回させるのが不思議な手順です。先月号の久保作「モーメンと」と並んで、好みど真ん中。

・表紙(結果稿)
ここ数年の表紙で一番好きです。額に入れて飾っておきたいような美しさ。


……以上です。思いついたことを片っ端から書いていたら、かつてないくらい長くなってしまいました。読みにくい部分もありますが、雑感ということでお許しください。

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No title

小林敏樹さんが今回の順位戦の作品を作ったのは数年前だったと思います。何かで石川作を知ったので、発表を控えていたのではないかな。石川作が発表されたので、「今年は順位戦の作品で悩まなくて済む」と投稿に至ったという流れでしょう。
(どうでもいいことですが)

No title

>風みどりさん
そうなのですか。投稿用紙には
「4月号高校・石川英樹作の91角不成!に刺激を受け、その構想を旧作5手詰に借用したものです」
とあったので、石川作を見てから作ったのだと思っていました。

順位戦作

僕の作品に触れて頂きありがとうございます。

順位戦の作品はどうやって創ったかですが、初手角最遠地移動と終3手目にその角を捨てるのを決めました。
角捨ての意味は、龍で取らして桂吊しが良い感じ。
そこからとりあえず逆算ですが、59角、同龍が入りそう。既成手筋で既にある手順なので入りそうではなく、入るはずです。
既成手順でなくても浮かんでいますが、59に捨てる角を配置すれば都合良く最遠地移動に出来ると直感しました。
後は間を埋めるだけです。
この間の部分は他に方法はあると思いますし、作家が違えば違う創り方になると思います。
この収束から逆算で初手の最遠地移動にしたなら凄いと思いますが、最遠地移動を先に決めてそれに合う収束を考えて創っているので、すっ飛んだ発想力がなくても出来た作品なんです。

No title

>三輪さん
初手と収束をリンクさせる作り方だったとは。
確かに言われてみれば、最後に角をスイッチバックで捨駒にするとさえ決めれば、収束は順当に決まっていきそうです。
間を埋める作業のところは作家の腕の見せどころでしたね。

No title

拙作のご解説に感謝。「無駄合」ー>「グレーゾーン」です。

No title

>たけさん
失礼いたしました。
思っていたより作意解者が少なかったのは残念でした。作意にはない逆王手が出てくる変化なので……。

No title

字面だけ読むと、逆王手の合駒を無駄合と主張している傲慢な作家、または、ただのアホと誤解されかねません。笑 むしろ逆で、観念でルールを変動する世界に対して、作家は極めて冷静かつ低姿勢に「現在の皆様はどう判断されますか?」と作品を投稿しているということです。特定の変長収束が突如として無駄合判定になることもあるのですから。

No title

詰パラ解答陣なら角合の作意推定は容易なはず。その上で、敢えての桂合解答が面白さの1つだったりするのでは・・・・・・。桂合解答は、短編でもこの程度は余詰ではなく手順前後で問題なしと寛容になったわけではないだろうから、単に解けていない人が増えただけなのでは?
(どうも愚痴っぽくなってしまいすみません。。)

No title

>たけさん
正確な書き方になっていなくてすみません。本文中、無駄合→グレーゾーンに修正しました。
解答者は角合と桂合どちらが作意か分からず迷った、というよりも、桂合で15手駒余りなしの手順が出てきたのでそれに満足して角合まで読まなかった、という感じでしょうか。ただ、解答上桂合15手を答えられていたら、作意の特定はできていなくても「解けている」と扱うことになってしまうのがつらいところです。
また、逆王手の桂合に関して「これは無駄合?」などとコメントしている解答者もいなかったので、「現在の皆様はどう判断されますか?」というたけさんの問いに対して答えが帰ってこなかったのもちょっと寂しい結果でしたね……。

No title

無駄合かどうかの判定は、合駒の種類によりません。
これは、合駒が逆王手でも変わりません。

武さんの作品の、2手目の変化35桂の局面で、
26銀(角)合が有効ならば変長ですが、
そうならないのはこれが無駄合だからです。

25合は種類によらず有効で、短手数の変化と同手数の変化に分岐します。

一般にグレーゾーンといわれているものは、有効合です。
グレーゾーンとする理由は、変長に対する風当たりがきついからです。
変長を一律に瑕疵とするのではなく、作品ごとにあるいは発表される媒体ごとに裁量するべきなのです。
このことは、ほかの曖昧なルール(最終手余詰・非限定・飾り駒など)と同様です。

No title

>ミーナさん
「変長を一律に瑕疵とするのではなく、作品ごとにあるいは発表される媒体ごとに裁量するべきなのです」という点に関しましては、おおよそ同意見です。
私の場合は、「自作にはできるだけ瑕疵を残したくない」という方針で作っていますが……。
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my cubeへようこそ。詰将棋のブログです。駒を並べてアートが表現できるって素敵なことじゃありませんか? 詰キストの方もビギナーの方も楽しんでいってください。

Author:鈴川優希
主に月刊誌「詰将棋パラダイス」に作品を発表している詰将棋作家。東京在住の学生です。詰将棋は小学生の頃から作り始め、2009年5月に詰パラ初入選。2015年12月に最年少同人入り(入選100回)。小~院すべての詰将棋学校で半期賞受賞経験あり。2016年4月より詰パラ連載「ちえのわ雑文集」の世話役に就任しました。原稿随時募集中です。

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2015年(第n回)・2016年(第φ回)に開催。使用駒数11枚以上、タイトル必須という条件で募集した作品を出題し、解答者に評価してもらうという企画です。結果発表はニコ生で行いました。作品の結果稿はブログ右袖のカテゴリーからご覧いただけます。なお、この裏短コンはほっとさんのブログ「詰将棋考察ノート」に受け継がれました。

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今週の詰将棋は2009年7月からの2年間100題。詰将棋ウィークリーは1012年3月からの50週は幻想咲花さんとのコラボ、それ以降は鈴川単独の出題で2014年3月まで、#100をもって終了しました。解答していただいた方に感謝します。
※81puzzler閉鎖につき詰将棋ウィークリーの記事にはリンク切れが多いです。

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