詰パラ 入選151回 A級順位戦

詰将棋パラダイス2019年6月号
A級順位戦

② 入選151回
東京都 鈴川優希


誤1 無3
5-10 4-11 3-9 2-1 1-0 ※2
平均3.967
3位残留

川島○嗣―初手の発見に呻吟。16飛から敵銀を1回転させるシナリオに感嘆。
○下誠―玉を守る2枚の銀の成生の綾に精妙な味わいがある。
☆銀を成らせる構想も、銀を1回転させる構想も、よく見かける。しかし、2枚の銀を絡ませて一つに織り込んだ作品は珍しいのではないだろうか。(解説:夏風)



初形から16銀を18成銀に変化させて、頭金迄の1手詰。うまくできた。
序の2手を入れるのに非常に苦労していて、何がそんなに難しいのかというと、
・初手27歩、同銀生、17金は逃れ
・初手17金、同銀成、27歩は詰む
という紛れと作意の両立が大変なのだ。
36玉と避けられた時の詰ませ方で手順前後の違いが出るように作らなければいけないのだが、さらに条件として
・初手17金に36玉は詰む
・初手18桂に36玉は詰まない
という切り分けも必要なのである。
四苦八苦しながら最初に到達した図がこちら。


初手に捨てる駒を角にしたことで、36玉の変化を35角と出るようにして詰ませている。この変化で金4枚を使い切るようにしているので、初手27金~17角は詰まないという仕組み。
もちろん、こんな図のまま世に出すわけにはいかないので、再度いじりまわして到達したのが発表図ということになる。玉方の銀が27に来たときに38にも利いてくることに気付いたのが鍵だった。(その間に別の論理で変化紛れを切り分けた図もいくつかできたが、すべてボツにした)

発表図も、決して置駒が少ないわけではないのだが、なんとか狭い範囲に収まって誤魔化せていると思う。38香は少し気持ち悪い配置かもしれないが、37で清算して38金と据える筋や38桂の余詰を消しているのに加えて、36玉の変化で積極的に働いている(つまり、もし二歩が許されたとしても38歩配置ではいけない)という絶対性があり、効率はよい。このあたりは、推敲の成果だ。

詰パラ2019年9月号雑感

ブログに詰パラ雑感を書くのは久しぶりです。
今月号では注目したい作品が多く、1つの記事にするだけのネタがあるなと思ったので。


・大学
自作が入選。私には珍しい簡素形です。こんなのじゃボツになるかもと思って投稿したのですが、ありがたいことに採用してもらえました。解くのは骨が折れるので、腕自慢の方はよろしくお願いします。

・アマ連握り詰
武島作はなんでこんなことが握り詰でできるんだと驚いてしまう作品。馬屋原作はセンスが光る作で、全国大会の会場でこの2作を見て感心していました。

・ちえのわ
太刀岡さんには担当者なら書けるよねと押し付けたような形になってしまいましたが、お願いしてよかったと思いました。
現在、年内は枠が埋まっていますが、それ以降は未定ですのでネタのある方はぜひご連絡ください。

・A級順位戦結果稿
ギリギリのところで降級を回避しました。私としてはかなりよくできた部類だったのですが、やはりこういうものは順位戦では伸びにくいようです。作品の詳細は別記事で。

有吉作。角の最遠移動は去年の看寿賞候補にもなった同氏の中学校の作品が記憶に新しく、いろいろ試した中でこの作品も派生したということでしょう。本作は最遠移動の後にこんなにも捨駒が入るのかという驚きがあって、構成も完璧。よくある表現を使わせてもらうなら、このタイプの最遠移動の決定版といった印象で、今年の看寿賞も有力ではないでしょうか。

・B級順位戦結果稿
解説を担当しました。分かりやすい解説ができたと思って悦に入っているのですが、書きそびれたこともあるのでこの場で補足を。

武作。2手目14桂合は作者自認の変同、と書きましたが、実際のところ作者は「変化中25桂合の逆王手は無駄合グレーゾーンだと思っているが、もし有効合だったとしたら変同でこれはしょうがない」、という判断で投稿されていました。私としては、どこにも無駄合と主張できる要素がないと思いましたので、スペースの都合で深入りすることなく変同という扱いにさせてもらいました。
変同のせいで混乱した解答者が多く、バツにするのは忍びないなあと思う解答もあったのですが、点数をシビアに競う順位戦の場ということで、作意と変同解、変同余詰解以外は誤解と判定しています。

則内作。「初手も最終手も44龍のおまけつき」と解説には書きましたが、投稿用紙に記載はなく作者が意図していたのかどうかは不明です。でも私はこのような形式的なところに詰将棋としての価値を見出すタイプなので、解説で必ず触れておきたいと思ったポイントです。

芹田作と馬屋原作は評点がまったくの同点でしたが、昨年の順位の差で馬屋原さんが昇級。ちなみに、昨年のC級順位戦も私が解説したのですが、ここでもまったくの同点が出て、今回のB級坂田氏が昇級しています。

小林作。解説で引き合いに出した4月号高16石川作は次の通り。
せっかくなので、今回の小林作も並べておきます。




この2作をよく見比べていただきたいと思います。
小林作(下)は収束で飛車が消えないことが不満だと解説に書きましたが、先行の石川作は最遠移動で行って帰ってきた角を収束に消していることが大きな違いです。
また、石川作は「作意中で歩を打たない」ことも見逃してはいけません。

「持駒に歩がない状態での打歩関連手筋」は打歩詰作品の一大テーマだと私は考えていて、
(1)打歩詰になるという未来が見えていない段階での攻防なので、意外性・深みが増す。
のはもちろん、
(2)歩を打つ手およびその前後の緩みを変化に隠すことができ、作意手順を濃密にできる。
という利点があります。
特に(2)の利点は短編においては重要で、第n回裏短コンで優勝した「欺きの一角獣」が好例ですし、今回のB級順位戦でも則内作がそれにあてはまります。
石川作と小林作を比べてみても、歩と桂を単に打って収束する小林作に対し、石川作は歩を打つ手を省略することによって同じ13手という中で捨合、角捨、移動合を詰め込むことに成功しています。

では、小林作が優れているところはどこか?と考えますと、やはり配置の良さが挙げられるでしょう。
使用駒数で比較するとほとんど違いはありませんが、小林作は6×6に収まっている状況から最遠移動が出るというところがミソで、舞台装置が優秀といえます。このあたりの作図感覚は、数々の名作短編を生み出してきた小林氏ならではといったところ。
4月号で出題された石川作を解いて、これは飛にしたらおもしろいのではと考え、ひと月で作って即座に投稿。そんな小林氏の瞬発力を見習いたいです。

・C級順位戦
まず柳澤作がすごい。打ち捨てで馬をこの軌跡で3/4回転させるものは図巧75番や詰パラ2015年2月中学校の三輪作くらいしか前例がなかったはずで、私も作ってみようとして挫折したくらいには難しい条件です。今回の柳澤作は最後の馬捨てが素晴らしい。実現させただけで拍手喝采の手順です。
配置が嫌われて降級してしまいましたが、私としてはこの手順をやるならこれくらいの配置は必要だろうなと思ってしまいます。

天内作。これはいい逆算で、金合を出せたのが素晴らしい。31銀さえなければ。

三輪作。最遠移動からこんな収束につながるなんて。逆算で作っているのでしょうが、よくこんな初手が入ると思ったものです。

・同人室
三輪作。


作者コメントによれば、「取歩駒を発生させてそれを捨てさせて持駒にするのが構想」とのこと。「この構想は初めてとは思いませんが見た事はありません」ともありますが、これはついこの前武島さんが発表したばかり。


さすが武島さんという感じで、最低限の配置で狙いだけをスマートに表現しています。
あんなに駒を置いてやっと成立させた三輪さんの感想を聞いてみたいのである。笑

おそらく三輪さんは作者コメントにもある通り、構想よりも演出にこだわって仕上げたのだと思われますが、同じ構想で演出がもっとおもしろい作品もすでにあります。


攻方が森田手筋を目論んだところ移動合で取歩駒に逃げられるところまでは同じ。本作はその後もう一度森田手筋をやって、龍のアンピン(55龍捨)で森田手筋が成就するというストーリー。さすが本職の構想作家は違いますね。三輪作・武島作と違って移動合した角を取らずに構想に再利用するところが巧いです。

ところで、武島作と井上・久保作は詰パラの同じ号のデパートで同時に発表されています。担当者は「新構想(恐らく)ゆえ、発表順で不利にならないよう同時選題とした」とのこと。
この2作は『この詰将棋がすごい!2019』でも紹介されていて、久保さんの解説が読めるのでぜひご覧ください。
その久保さんは、今回の三輪作に対して「森田手筋に対して取歩駒を逃す移動合で受ける構想を歩がない局面で実現したのが主張点でしょうか」と結果稿でコメントしていて、確かにこれは武島作や井上・久保作には見られないポイント。先ほど私が小林作・石川作のところでも考察したように、持駒に歩がない状態で打歩をめぐる攻防をすることにはそれなりの価値があると思っています。
しかし、2つの価値
(1)打歩詰になるという未来が見えていない段階での攻防なので、意外性・深みが増す。
(2)歩を打つ手およびその前後の緩みを変化に隠すことができ、作意手順を濃密にできる。
に対して、三輪作は結局作意で歩を入手して打つことになるので、主張できるのは(1)だけでしょうか。
もっとも、作者コメントでは「歩がない状態で」ということに関してそもそも触れられていないため、三輪さんよりも久保さんのほうが作品を正確に分析できているような気がするのである。笑

金子作。これはブルータス手筋が構想というよりも、バッテリーのフロントピースの位置を変える構想と考えたほうがよさそう。今までありそうでなかったアイディアで、今後どんどんおもしろい作品が出てくるのではないかと思います。本作は馬が邪魔駒という意外性の演出が巧く、ぜひとも記憶にとどめたい作品。

鈴川作。心理的な難しさがあって無解者が多かったですが、解けた方には狙いが伝わったようで何よりです。また別記事で。

ところで話は変わりますが、私は結果稿に自分の作者コメントをできるだけ載せてほしくないというのが本音です。今月は順位戦でも同人室でも私のコメントが長々と載ってしまっていますが……。
私が投稿用紙にコメントを書いているのは、自作を採用してくださいと担当者にアピールするためというのが一点、そして作品の狙いを担当者に正しく伝えるためというのがもう一点です。
担当者に向けて書いたメッセージのはずなのにそれを誌上で長々と公開されてしまうと、作者が自分の作品について求められてもいないのにペラペラと饒舌をふるっているようで、私としては非常に気恥ずかしいのです。
作品の狙いを正しく理解した上で、それを読者に対して客観的に伝えて批評をするのが担当者の役割だと思っています。そのため私が結果稿を書く側に回った際は、できるだけ作者コメントの引用を避けて自分の言葉で解説しているつもりです。
もちろん解説のやり方は人それぞれ、自由なのですが、自作に対して自分があれこれ語っている結果稿を読んでも作者はちっともおもしろくないのです……。
そんなに嫌ならあらかじめ投稿用紙に引用するなと書いておけばいいじゃないか、と言われるかと思います。一時期そういう但し書きをしていたこともあったのですが、それはそれで採用されることを前提にした傲慢な態度である気がしてやめてしまいました。せっかく自作を解説してくれる方に対して、こちらから事前に解説の仕方に注文を付けるというのは、なんだか気が引けるのです。
身勝手な悩みだとは思いますが、どうするのがベストなのでしょうか……。

話を同人室に戻して、海老原作。


解説では禁じられた遊び手筋だと書かれているので、このブログの禁じられた遊び手筋リストにまた新たな作品が加わった……かと思ったのですが、本作、本当に禁じられた遊び手筋ですか?
まず短評にある「『禁じられた遊び』テーマとするため59角~39飛で焦点を8段目に持ってゆく」という解釈は誤りで、59角はただ単に攻方飛の縦の王手を遮らないため(かつ、77に活用できる)、という意味付けだと思います。作意手順中の48桂成も、焦点へ中合して角の利きをブロックするのが目的ではなく、単に飛車を近づけるためのものです。
また解説には「10手目単に46桂合だと45歩、34玉、39飛に対し38桂と打てないので銀を合駒せざるを得ず詰む。そこで48桂成~46桂合として45歩なら34玉のとき38飛を取ってしまうわけだ」とありますが、10手目46桂合の変化で38桂合が打てないのは八段目だからという以前に桂馬が売り切れだからです。
百歩譲って、桂馬を玉方がもう1枚持っていたとしたら確かに八段目のおかげで打てなくなるのですが、それはただ単純に「変化の一つで八段目桂合禁止のため詰むようになっている」だけであって、桂合の可否を巡って攻方・玉方が何か策を講じるわけではないので、禁じられた遊び手筋とは言えないような気がします。(直接の38桂合がダメなので46桂合から38桂成の移動合で八段目桂合を可能にする、などといったストーリーなら禁じられた遊び手筋に間違いないのですが)
もっとも、作者は何か一つの構想を狙って作っているわけではなさそうなので、禁じられた遊び手筋になっていないからといって本作の価値が落ちるとは思いません。ただ、作品に対する誤った理解は避けるべきだという話でした。

・創棋会作品展
谷本作。これがおもしろいです。最初と金を27に誘導するために、わざわざ角1枚捨てて26→27と迂回させるのが不思議な手順です。先月号の久保作「モーメンと」と並んで、好みど真ん中。

・表紙(結果稿)
ここ数年の表紙で一番好きです。額に入れて飾っておきたいような美しさ。


……以上です。思いついたことを片っ端から書いていたら、かつてないくらい長くなってしまいました。読みにくい部分もありますが、雑感ということでお許しください。

モデルメイトとは何か?

全国大会が終わってから1か月が経ちました。
全国大会効果というのか分かりませんが、詰将棋に対する熱は少し戻ってきていて、今月すでに中編を3作ほど作っています。
1年ほど、完全に創作から離れていたので、これで復活ということになればいいなと思います。

さて、本題ですが、詰パラ8月号を読んでいて少し気になった箇所が。
短21、石川氏作の解説のところです。


石川氏はいつもはっとするようなアイディアを取り入れた作品を発表されていて、非常に注目しています。
本作も、簡素な初形から高木手筋風の(※1)桂合が出てきて、飛2枚を捨てる収束までオリジナリティの高い手順です。

この記事で問題にしたいのは、作品の内容ではなく、詰上りに対しての解説です。

☆メインの27角生移動合は打歩誘致の常套手段。38桂と据えてからの36飛捨てが決め手となり、さらに25龍と捨てての詰上り。攻め駒は小駒ばかりで枚数は多いものの、いわゆるモデルメイトである。

はて? この詰上りは、果たしてモデルメイトと言っていいのだろうか。これが今回のテーマです。

modelmate1.png図1

モデルメイトとは、おそらく2013年ごろから詰将棋界に登場した用語で、もとはチェスプロブレムの概念だったものを輸入した形です。
その定義ですが、誰かによって統一された定義はなく、人によって使い方に少し差があるように思います。
おそらく最も一般的な解釈は、「詰上図において、玉の周りのマスに攻方の利きが重複しない」というもの。

図1を見ると、確かにその条件は満たしているように思います。が……。
25の地点、これが問題なのです。玉方の馬が25を埋めているので、ここにはそもそも玉が逃げる余地がない。にもかかわらず、攻方の37桂がそれをダメ押しで阻止しているのです。

私の見解から先に言いますと、図1はモデルメイトではありません。

そう主張したい背景には、モデルメイトという言葉が使われるようになった意図をしっかり説明する必要があります。

modelmate2.png図2
modelmate3.png図3

まずは、図2図3を見比べて、どちらのほうがより美しい詰上りだと感じるでしょうか。
「どっちもたいして変わんないよ」という方のために、もう1つ例を用意しました。
次の図4図5は、どちらがより美しい詰上りでしょうか。

modelmate4.png図4
modelmate5t.png図5

どの図も、実際の詰将棋でしばしば見かけるような詰上りだと思います。
しかし、特に図5を見てみると、駒の利きがいろいろ重複している箇所があり、さすがに図4のほうが優れていると感じる方のほうが多いのではないでしょうか。
せっかくの両王手の詰上りなのだから、角の長い足で捕まっていることを強調するために、58地点には壁駒を置きたくないし他の攻駒を利かせたくない。そう考えるのが詰将棋作家だと思います。
また図2図3に関しても、よりシンプルな図2に軍配が挙がる気がします。

このような「詰上りの美しさ」を図る指標の1つが、「モデルメイト」なのです。
できるだけ少ない攻駒で、ギリギリのところで玉を捕まえているからこそ緊張感が生まれますし、特に超短編においては重要視されてもいい基準と言えそうです。

また、これはちょっと話が横道にそれますが、図3には最終手余詰が生じているという問題もあります。
持駒の金を打ったところだったと推測すると、図6のようになりますが、これは23龍、22合、32金、11玉、22金迄の最終手余詰ですね。

modelmate6.png図6

もちろん中長編の収束となってこんな最終手余詰を気にしていたらキリがないですが、もしこれが1手詰や3手詰だったとすると、なかなか痛いキズだと思われます。
このような事態が発生するのは、つまり詰上りで攻駒の威力が過剰だから。そもそもギリギリのところで捕まえている図2であれば、最終手余詰は生じようがないのです。

modelmate2.png図2再掲
modelmate4.png図4再掲

話を元に戻します。ここに再掲した図2図4のような詰上り、これがモデルメイトです。
重要なのは、「玉の周りで攻駒の利きが重複しない」ことというよりも、「ギリギリのところで駒効率よく玉を捕まえている」こと。
それが、詰上りの美しさにつながってきます。

このような点を踏まえますと、例えば次の図7のような詰上りは、モデルメイトと認定したくない気持ちがご理解いただけるかと思います。

modelmate7.png図7

確かに、攻駒の利きの重複こそありませんが、56の桂や48の歩は詰上りにおいて必要のない存在です。これらがあるのであれば、57銀ではなく58桂くらいで充分なのです(その図は文句なくモデルメイトです)。

玉方の壁駒による重複がある詰上りをモデルメイトと認めてしまうと、そもそもモデルメイトという概念を持ち出してきた意味自体が薄れてしまうということを強調しておきたいと思います。

念のため申し上げておきますが、この記事は石川氏の作品や解説の石黒氏を批判する目的で書いているものではありません。定義が曖昧な現状において、モデルメイトという概念をしっかりと整理して、理解の普及を促すことが目的です。



さて、関連する話題ですが、「透かし詰のモデルメイト」ということにもついでに触れておきたいと思います。
少し考えれば分かることですが、透かし詰において、厳密な意味でのモデルメイトは基本的にはあり得ません(※2)。

modelmate8.png図8

このように、合駒を防ぐため、どうしても玉に接するマスの1つに攻方の利きが重複してしまいます。

しかし私は、図8のような詰上りも、モデルメイトとして分類していいように思います。
というのも、図8はモデルメイトの根本的な概念である「ギリギリのところで駒効率よく玉を捕まえている」に当てはまるからです。
合駒を防ぐためのマス以外の部分に攻方の利きや壁駒の重複がなければ、それでいいじゃありませんか。
透かし詰であっても、詰上りの美しさを図る尺度としてモデルメイトの概念を使えたほうが便利に違いありません。



また話題は少し変わります。
今までは簡単のため、「すべての攻駒が詰上りに協力する」ことを前提として例を出してきましたが、次のような図はどうでしょうか。

modelmate9.png図9

図2に53歩を追加したものです。実際の詰将棋には、このようなパターンがかなりありますね。
これは果たしてモデルメイトと呼んでもいいのでしょうか。
私は、グレーなところだと思っています。

というのも、何度も言うようですが「ギリギリのところで駒効率よく玉を捕まえている」というモデルメイトの概念に図9が当てはまるかというと、ちょっと首を傾げたくなるからです。
詰上りに協力しない攻方53歩という駒が残ってしまっているとなると、美しさという点では価値が少しだけ下がりそうです。
少なくとも、れっきとしたモデルメイトであった図2とは、一応の区別をしておきたいと思っています。

図2モデルメイト図9準モデルメイトと呼んで区別するか。
図2純正モデルメイト図9を単なるモデルメイトと呼んで区別するか。

方法はいろいろあるかと思います。チェスプロブレムではピュアメイトという用語もあるそうです。(詳しくは知りませんが……)

ただ、この区別のための用語を今すぐに決めたり、その使い分けを他の人に強制したりするようなことをする必要はまったくないと思っています。
話す上では、どちらもモデルメイト、だけで充分です。

そもそもモデルメイトは、詰上りの美しさを言語化するためのただの指標であって、その定義について深く厳密に議論するようなものではないと思っています。
昔詰パラで提唱された、動駒率、消去率、回転率のようなものです(※3)。
あくまで指標。モデルメイトではないからといって、その作品の価値が大幅に下がるようなことはありませんし、モデルメイトにしたからといって作品の質がグッとよくなるといったこともないでしょう。

例えば創作の仕上げの段階で、配置の二者択一を迫られた時に、こっちならモデルメイトになって気分いいな、ということを基準にして決める。それくらいの扱い方でいいと思います。
(まあ私は、自分の作風としてけっこう詰上りを重視しているのですが……。そういう人は少数派でしょう)

そういえば以前、モデルメイトに関連して、こんなことを言われた覚えがあります。

modelmate10.png図10

利きが重複しないのがその定義なら、この図だってモデルメイトじゃないか。どこがギリギリで気持ちのいい詰上りなんだ、と。
その通りです。モデルメイトに間違いありません。

しかし、この図においてモデルメイトという言葉を出してくることは、それ自体が少し見当外れなのではないかと思っています。
喩えるなら、裸玉の作品を見て、「これは不動駒ゼロの作品だ」、「これは初形“点”の曲詰だ」と言ったり、
煙詰の作品を見て「初形が盤面全体に広がっていて美しくない」、「長編なのに繰り返し趣向が入っていなくてつまらない」などと言うことと似たようなものだと思っています。

モデルメイトという概念が意味を持ってくるのは、詰上りの形のよさがアピールポイントの一つとなっている作品に対してのみです。
例えば、盤面右上にまとまった初形から、大海へ玉を追い出して、角の長い足を使って脱出寸前のところを捕まえる作品。
このような場合は、詰上りのギリギリ感こそが作品の狙いにダイレクトに関わってくるので、モデルメイトという概念が非常に大切になってくるのです。

せっかくなので図10に関して、もう一点だけ。
そもそもモデルメイトは、美しい詰上りであるのための十分条件ではありません。
モデルメイトならば美しい詰上りであるという解釈は誤りなのです。それを図10は示してくれています。
ならばモデルメイトは美しい詰上りのための必要条件かというと、それもまた違うと思います。
詰上りが美しいと感じるのは、その詰上りがモデルメイトになっているからだ、とは限らないはずです。利きの重複以外にも、いろいろな要素によって詰上りの美しさというものは変わってきます。

何度も言いますが、あくまで指標。モデルメイトであれば、その詰上りを美しいと思える傾向がある。それだけのことです。
(今までの詳しい議論は何だったんだ、となるような結論ですが)



以上、モデルメイトについていろいろ語ってきました。
私が示した例で、どれをモデルメイトとするのか、しないのか、という点に関しては、やはり人によって違いがあると思います。
もちろん、その考えを否定するつももりはありませんし、冒頭で問題提起した石黒氏の解説も、これは完全なる誤りだ、と批判するつもりもありません。
ただおそらく、モデルメイトという言葉が使われ始めたのは、このブログがかなり起源に近いという事実があります。(※4)
当事者の一人として、私自信はこのような解釈をしているのだ、ということをここにまとめておきたいと思い、こうして記事を書いています。

皆さんも、ぜひモデルメイトという概念を頭の片隅に入れて、創作や鑑賞に役立てていただければ幸いです。



※1
高木手筋もまた、解釈の分かれる用語ですが、ここでは最も広義に捉えて、「ある大駒XがラインA→ラインBの順で王手する。ラインBの王手に対してある合駒をしたいが、それは何らかの理由によって不可能もしくは早詰になる。そこで(本来は中合をする必要がない)ラインAの王手の段階で中合をしてXを近付けておくことにより、擬似的にラインBで合駒をした時と同じ効果を得る」という解釈にしておきます。高木手筋については、また別の機会に詳しく書くかも知れません。

※2
合駒制限や、大量の花駒を配置するなどして、「合駒が不可能」という状況を作り上げれば、透かし詰でも厳密なモデルメイトが作れます。ただしかなり特殊な状況なので、補足に回しました。

※3
動駒率、消去率、回転率もまた、詰将棋のよしあしを語る上で参考にするとよい(かもしれない)概念です。詳しくは、詰パラHPに載っています。→詰将棋オモロ講座

※4
モデルメイトという言葉を詰将棋で初めて使ったのは若島正氏(のはず)。
このブログでは2013年のこの記事のコメント欄が初出です。→詰将棋ウィークリー#39 解答
以降、三輪さんや私がこの言葉を気に入ってブログ上で使っていき、現在では稀に詰パラ上でも使われる用語として少しずつ普及していっているように思います。

詰パラ 入選150回 大学

詰将棋パラダイス2019年5月号

大14 入選150回
東京都 鈴川優希

35-8.png泣斬馬謖きゅうざんばしょく




詰パラの結果稿では棋譜の参照記号が抜け落ちていたり、作者コメントが中略されたりして言いたいことが伝わりにくくなっている(そして誤植もある)ので、ここでしっかりと解説しておきます。
久しぶりの構想作なので、少し気合を入れて。

まず初手はどう考えても69銀だろうということで、ここから考えてきます(図1)。

35-8fig01.png図1

ここで玉方の持駒は金銀歩しかありません。ろくな合駒ができないので、55地点に移動合して受けるしかないのですが、例えば55桂跳ですと同香、同馬、同龍以下詰みです。
というわけで、55への利きを増やすため、いったん58桂成と捨てておきます。これは自然な応手です。
同香となって図2

35-8fig02.png図2

ここで55桂跳ですと、44龍と捨てるのが好手で、同玉に56桂と両王手をかけます(図3)。

35-8fig03.png図3

53玉と戻るのは65桂の1手詰ですし、33玉は42銀生、32玉、41銀生、33玉、34歩、同玉、24と、35玉、25と迄の詰みが簡明です。
したがって、55桂跳の受けは詰んでしまうことが分かりました。

35-8fig02.png図2再掲

というわけで図2に戻って、55角成もしくは55馬と受けることになりそうです。どちらが正解なのかはまだ判断できませんが、とりあえず55角成としておきます。以下、44龍、同玉、56桂、53玉と同様に進んで、65桂を同馬と取ることができるのが55角成の効果です。
続いて、64桂と跳ね出したところが図4

35-8fig04.png図4

この局面で、玉方は困っています。というのも、何か合駒をしたとして、次に52桂成、同香、54歩、同馬、42銀生までの詰みがなかなか防げないからです。
唯一の手段は、取歩駒である馬を自ら消しに行く、56馬!という手です(図5)。

35-8fig05.png図5

しかしこれも、その場しのぎの応急策でしかありません。同香と取ってみれば、玉方はまた合駒に困ります。前に利く駒は渡せませんから、55桂打などと粘るしかありませんが、同香(次に65桂迄の詰み)、同馬と進み、結局は52桂成から54歩と打たれてしまうのです。これでは、避けようがありません。

というわけで、もうお気づきかもしれませんが、少し戻って図2の局面では55馬と、こちらで移動合するのが正解です(図6)。

35-8fig02.png図2再掲

35-8fig06.png図6

44龍、同玉、56桂、53玉、65桂、同馬、64桂、56馬で図7

35-8fig07.png図7

同香に55角生!(図8

35-8fig08.png図8

これなら、52桂成、同香に54歩が打てません。
後から角生として打歩詰に誘致するために、先に馬で移動合して、その馬を捨てる。玉方馬先馬角が狙いでした。
角の連続移動合という派手な手順の中に構想を組み込んだことに価値があると思っています。

ちなみに、タイトルの「泣斬馬謖」ですが、十八史略(つまり三国志)の故事成語です。「泣いて馬謖を斬る」とも言います。

馬謖は中国の三国時代の蜀(しょく)の武将で、諸葛亮(しょかつりょう)の信任をうけて参軍した人物である。 馬謖は街亭の戦いで命令に背き、戦略を誤って魏軍に惨敗した。 諸葛亮にとって馬謖は愛弟子であるが、軍律の遵守を最優先させるため、命令に背いた馬謖を斬罪に処し涙した。 この故事から、規律を保つためには私情を挟まず、違反者を処分するたとえとして「泣いて馬謖を斬る」と言うようになった。

19馬が馬謖。愛する臣下を泣く泣く斬り捨てる場面(56馬)をイメージして命名しました。

さて、解説に戻ります。メイン部分は馬先馬角ですが、この後もいろいろ仕掛けがあります。
とりあえず図8の局面から同香、同桂と取ってしまってから考えます(図9)。

35-8fig09.png図9

どうにかして歩を打とうと画策するなら、次のような手段が思い浮かびます。52桂成、同香、86角(図10)。

35-8fig10.png図10

86角が明らかに非限定なので、作意ではない感はありますが、有力な順です。
しかし、75桂合、同角、同飛生!、65桂、同飛で、これは惜しくも詰みません。

図9に戻って、今度は35角と、こちらから打ってみましょう。これには44香合(図11)が最善の受けとなります。

35-8fig11.png図11

以下、同角、43玉、65角、54飛合(他合は33角成、同玉、34香で詰み)となって、まだまだ手は続きますが紙一重で逃れています(図12)。62角成には47桂打合、また55角には45桂合です。

35-8fig12.png図12

それでは、どこがいけなかったのでしょうか。岐路は55角生の局面、図8にあります。

35-8fig08.png図8再掲

ここで、先ほどは同香、同桂、35角に44香合で逃れました。
この香は、攻方が今渡したばかりの香です。そして、玉方の駒台には、他に香はありません。
つまり……この55角を取って香を渡してしまう前に、あらかじめ35角と合駒を訊いておけばいいのです。これには44桂合が最善となります(図13)。

35-8fig13.png図13

ちなみにこの35角は限定打で、17角ですと26歩合、同角、44桂合、55香、43玉で逃れとなります。まあ、わざわざ17から打つ人はいないでしょうが。

図13から、55香、同桂、44角、43玉、65角、54飛合と進んで図14

35-8fig14.png図14

図12と比べて、持駒が香から桂になっていることが分かります。
(それによって33角成、同玉、34香の筋がなくなっているのでこの54合は飛でなくてもよさそうですが、結論から言うと飛が最善です。理由は後述)

35桂、32玉、54角で図15

35-8fig15.png図15

ここで43合はどのように攻めてもボロボロに詰むので、41玉の一手。
いよいよ収束です。32角成!、同玉、33角成!、同玉、34飛!、同玉、24と、35玉、25と迄35手詰(図16)。

35-8fig16.png図16

メインの構想部分で活躍した角2枚に加えて、合駒で奪った飛までも連続で捨てての詰上りは気持ちいいかと思います。
収束というのはかくありたいものです。

ここからは補足です。図14では54飛合としていましたが、代わりに香合とした局面が図17

35-8fig17.png図17

作意と同じように、35桂、32玉、54角以下の順で詰みます。最後に34に捨てる駒が飛から香車に変わるだけです。
では、ここの合駒は非限定なのかというと、そんなはずはなく。
図17で、55角が見えにくい手。いろいろな応手が考えられるので面倒ですが、例えば44銀合ですと、同香、32玉、54角、43歩、33銀、同玉、43香成みたいな感じで、いずれも作意より短い手数、もしくは同手数駒余りで割り切れています。
作意のように54飛合としておけば、55角には45香合、同香、34玉とかわして逃れているわけです。
解答者の中には、ここの飛合、香合を間違えて誤解した方が多いように思われます。
変別含みの割り切り方(しかも煩雑)なので、ちょっと申し訳ないのですが、しかし実は誤解に気付くことが可能なタイミングがあります。

35-8fig18.png図18

図17から35桂、32玉、54角と変別順に入ってしまった局面が図18
41玉なら32角成以下きれいに詰むのですが、ここで43飛合が非常にいやらしい合駒となります。
ありとあらゆる王手が詰む、といっても過言ではない状況なのですが、不思議なことに、どれだけ頑張っても37手かかってしまいます。つまり、変長なのです。
これはおかしいぞ、ということを直感した方は、図17まで戻って55角という割り切り方に気付き、54は飛合だという結論に到達できるものだと考えられます。
飛合の作意順なら、図15において43飛合は売り切れなので、この変長の問題は解消されるのです。

35-8fig15.png図15再掲

作家目線から言うと、この43飛合という変長順を消すために、どうしても盤上どこかに飛を1枚置かなければいけませんでした。
いろいろな方法を検討したのですが、79飛として置くことによって、①初手~2手目の応酬が逆算できる、②図10の紛れが飛生で逃れる、という2つの活用法を見出せることに気付き、これに落ち着きました。
創作の過程で盤面が広がっていった背景にはこのような経緯があったのです。

それではここで、動く将棋盤で作意を並べておきます。ついでに、結果稿の一部も。



誤5 無8
A18 B4 C1
平均2.73

竹○健一―成生決定の余地を後に残す55馬と、56馬~55角生とか、すごい技を繰り出してくれますね!
占魚亭―体を張った馬のガードから打歩詰誘致の角不成の流れが素晴らしい!
○下誠―びっくり箱のように変則合が飛び出すが、最後は大駒を捨てきって鮮やかに収束する。



創作過程について少し書いておきたいと思います。
おそらく、作り始めてから完成まで5年ほどかかっています。
原図は実は13手詰。


エッセンスだけを抽出したような図です。
角2枚を移動合して、それをパクパクと取って、2枚とも捨てて詰上り。ストーリー性としては充分かと思いますが、いかんせん13手にしては駒が多すぎます。収束用の34歩・35香の配置もダサい。

最終手が44歩迄の突歩詰になったらちょっとはいいかも……と思っていたら、それは10手目64飛合という手があるので、手数が長くなってきそうです。
ただ単に詰めばいいわけではなく、角連続合のテーマでやるからには、収束はどうしても角を2枚とも消さなくてはいけないという意地があります。
そうして見つけた新しい収束の図がこちら。


発表図にちょっとずつ近づいてきた感じでしょうか。
23手目、24飛迄で詰みというように短く切りたかったところですが、18手目の33合がどうしても割り切れずに苦戦します。ここの変長は、この段階から曲者だったわけです。

そしていろいろ試行錯誤し、欲張って収束に飛も捨てられるように作ったのが次図。


ここまで来ると、発表図までもう一息です。
ちなみにこの図は、詰上りからの逆算で作っています。
私の使う常套手段、つまり、「再構成逆算」です。

正算で収束をつける場合、盤上で駒を動かしながら収束手順のイメージをしたら、いったんその図を忘れて、詰上りからの逆算で一から作り直すのです。これが再構成逆算です。
すべての詰将棋は、逆算で作ることができる。そして、逆算で一から作れば、不合理だった配置が整理されて手順成立の条件も理解しやすくなる。こういったアイディアに基づいた手法が、私の提案する再構成逆算なのです。
私の創作手法については、またいずれ詳しく書いてみたいと思います。

とにかく、収束で角角飛と捨てる図に行き着いたわけですが、この図で注目すべきポイントは、玉方36歩という配置です。
36歩の何がいいのかというと、これによって、さらなる逆算の道筋が開けているのです。

35-8fig19.png

上の図から2手逆算すると、こうなります。
56桂はただの両王手ですが、実はこの手、5筋の香車のラインを止める手なので、現実的にはなかなか入りにくい逆算です。36桂と跳ねるほうが普通は有利だからです。
それを可能にしたのが、36歩。詰上りでの単なる壁駒として置いた歩が、こんなところでいい働きをしてくれました。

この2手が入ればしめたもの。
さらに逆算して、ついに発表図を得ました。

こうして見てみると、発表図のメインの構想である馬先馬角は、実は創作の最後の段階になって逆算で追加されたものなのでした。
私は普段、構想作を作らないというか、なかなか作れません。
大概は逆算がメインで、逆算によって狙いの手順を入れるという方法をとっています。
今回はその手法がとてもうまく働いた例でした。



当初の予定以上に長々と書いてしまいました。
まあ、長い間温めてきた作品なので、愛着はあります。
作っている途中のどこかの段階で満足してしまったら、この発表図に行き着くことは絶対にありませんでした。
これ以上よくなるアイディアが浮かばない、といった場合でも、年単位で寝かせておけばある時ひらめくことがあるものです。
ともかく、この作品を納得のいく形で世に送り出せて満足しています。

「フロント-リア型」バッテリーの形成は珍しいのか

全国大会へ行った時に、ふと思ったことを考察してみたいと思います。

私と看寿賞短編部門を同時受賞した、有吉作。


詰パラ7月号の選考過程を読んでみると、

バッテリー組み直しが主題で、これを実現している作は他にも候補作としていくつか挙がっていますが、本作が他と一線を画しているのはバッテリーが『手前の駒(15角)』→『後ろの駒(14龍)』の順で設置されているという点です。これがかなり珍しい。

とあり、これ以降も同様の表現が2回ほど登場します。
最初読んだ時は別に気にしなかったのですが、全国大会での受賞作解説の際もこの点が非常に強調されていたので、そこまで言われてしまうと疑義を唱えたくなるというもの。
というのも、珍しいというその根拠が「今年の看寿賞候補作の中では本作しかない」という、不確かなものである(ように読めてしまう)からです。
もちろん、実際は詳細な検討が行われているのだとは思いますが、どのくらい珍しいものであるのかは私としても気になるところです。

(念のため注意書きしておきますが、本記事は有吉氏の作品を批判したり、看寿賞選考員にいちゃもんをつけたりするためのものではありません。
作例がどのくらいあるのか、気になったので調べてみた、という性質のものです。)

まず、問題となる手順を一言で表現するのがちょっと難しいです。
バッテリー組み換えの際、「手前の駒」→「後ろの駒」の順で設置する、というものですが、ここではこれを「フロント-リア型」と呼びたいと思います。
バッテリーの手前の駒を「フロントピース」、後ろの駒を「リアピース」と呼ぶ方法は、詰パラでも以前使われたことがあるようです。チェスプロブレム由来なのかどうかは、私には分かりません。

それでは、まず私が真っ先に思い当たったフロント-リア型の作を一つ。


自作です。
初形では1つもバッテリーがない状況から、2つのバッテリーを作り、それをどちらも開くことで3つ目のバッテリーを形成(ここがフロント-リア型)、そして最後は3つ目のバッテリーも消して詰上りという内容です。
途中で98銀の邪魔駒消去が入るあたりも、うまくできていると思っています。
評点は2.86だったのですが、半期賞を逃すという惜しい一作でした。

このように自作に作例があるという点からも、フロント-リア型が「かなり珍しい」という説には素直に賛同できなかったという背景があります。
ちなみに、自作では他にフロント-リア型はありませんでした。

最近の例で言いますと、こちら。


先月のちえのわにご登場いただいた鳩森さんの作品。今月発刊のkisy一族作品集「青い鳥」にも収録されています。作者による解説はこちら→2019年1月号 中学校2 拾遺
内容としては、と金を軽く捌きながらバッテリーを組み替えるのが特徴です。収束は、有吉作をちょうど90度回転させたような印象があります。
もちろん有吉作のほうが発表は先ですので、念のため。

青い鳥には、他にフロント-リア型の作品はありませんでした。

さて、フロント-リア型の一般的な考察ですが、リアピースを後から置くということは、当然フロントピースの陰に隠れるわけで、それを実現するには

①リアピースの別方向への利きによって王手する。
②別のバッテリーのフロントピースが移動してリアピースとなる。

の二通りしかありません。
このうち①は、玉が別方向から移動して来なければいけないため、手数が少し長くなりそうです。
超短編で表現するなら、②がベターでしょうか。
この場合、わざわざ陰になるように開王手しなければいけない意味付けが必須で、それ次第で作品のおもしろさが決まってくるように思います。
そういう意味では、有吉作は龍の移動場所が多い中でわざわざ14を選ぶという意外性があり、看寿賞につながったのではないかと思います。

では、ここでフロント-リア型の最短手数を。


やや単調ですが、狙いのダイレクトな表現としては巧くできていると思います。角がスイッチバックするところも見逃せません。
本作は、借り猫さんのブログに載っていました。→限定移動集 その2

また、短編名作選を漁っていたら、こんな作品も見つけました。


……ム。自作と構成が似ている。紹介しなければよかったか 笑。

ちなみに短編名作選をパラパラとめくって探しても、フロント-リア型はこれ一作だけでした。
しかし、そもそもバッテリーの組み換えをテーマにしている作品自体が少なかった印象。
そう考えると、次のような仮説が立ちます。

・逆パターン、すなわち「リア-フロント型」は、どちらのピースの設置も「普通の王手」で可能。
・一方、「フロント-リア型」は、先述した①または②のような工夫をしないと実現できない。
・すなわち、「フロント-リア型」は、短編では必然的に②の採用が多くなるため、「バッテリーの組み換え」そのものを狙いとした作品でしかめったに現れない。
・これに対して「リア-フロント型」は、「バッテリーの組み換え」ではなく、単なる「バッテリーの作成」を表現した詰将棋では専らこれで、この作例は非常に多い。
・ゆえに、相対的に「フロント-リア型」が珍しいと錯覚しているのであって、「バッテリーの組み換え」をテーマとした作例だけで比較したら、「リア-フロント型」も「フロント-リア型」も、そこまで数は変わらないのではないか。

図で表すと、こんな感じです。


FRimage.jpg


「バッテリーの組み換え」カテゴリの中の、「リア-フロント型」と「フロント-リア型」の比率はどうか分かりませんが、大きく間違ってることはないように思います。
というのも、「フロント-リア型」の創作が難しいと思われている理由は、
「リアピースをわざわざ陰になる位置に移動させるのが難しい」
ということなのですが、「バッテリーの組み換え」カテゴリ内の話ならば、「リア-フロント型」も
「フロントピースをわざわざリアピースの利きを塞ぐ位置に移動させるのは難しい」
はずで、その困難の度合に大きな差はないはずです。

「バッテリーの作成」という広いカテゴリで比べてしまうから「フロント-リア型」がやたら珍しく見えてしまうのではないでしょうか。

なお、ここまで紹介した作品はすべてフロント-リア型②ですが、図の右下に小さく書いたフロント-リア型①にはどのような作品があるかというと、こんな感じです。


たった今私が急ごしらえした例題でなんのひねりもなく申し訳ありませんが、「フロント-リア型」には間違いありません。リアピース(31龍)を後から設置しています。
このような例なら、探そうとすればたくさん出てくるのではないでしょうか。

他にも、中編手数ならフロント-リア型②にこのような例が見つかりました。


「ミルキーウェイ」とタイトルが付いています。
これは、バッテリー組み換えが狙いというより、香の最遠打や歩香重ね打ちの虚々実々な攻防がおもしろい作品です。バッテリーの組み換えのみを切り取って紹介するなら、12手目の局面からの9手詰です。このように、香の陰に馬が回るような構図も、よく見かける気がします。

というわけで、結論になりますが、やはりフロント-リア型はあえて強調するほど珍しい構想ではないと思われます。
有吉作も、フロント-リア型を狙いとして作ったものではないでしょうし、評価されるべきポイントは他にあるといったところでしょうか。
ただ、バッテリーの組み換えというテーマを分析する上で、ある作品がどちらに分類されるのかを考えることは決して無駄ではないでしょうし、分類することによって見えてくるものもあるはずです。実際、私がこうして調べている間に、いろいろ勉強になりました。

作家の皆さん、ぜひ「バッテリーの組み換え」で一作作ってみませんか。

7/21追記
ここでいうバッテリーの作成およびバッテリーの組み換えは、フロントピース、リアピースともに作意手順中に設置するもののことです。どちらか片方だけなら相当条件が甘くなってしまうので……。
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my cubeへようこそ。詰将棋のブログです。駒を並べてアートが表現できるって素敵なことじゃありませんか? 詰キストの方もビギナーの方も楽しんでいってください。

Author:鈴川優希
主に月刊誌「詰将棋パラダイス」に作品を発表している詰将棋作家。東京在住の学生です。詰将棋は小学生の頃から作り始め、2009年5月に詰パラ初入選。2015年12月に最年少同人入り(入選100回)。小~院すべての詰将棋学校で半期賞受賞経験あり。2016年4月より詰パラ連載「ちえのわ雑文集」の世話役に就任しました。原稿随時募集中です。

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今週の詰将棋は2009年7月からの2年間100題。詰将棋ウィークリーは1012年3月からの50週は幻想咲花さんとのコラボ、それ以降は鈴川単独の出題で2014年3月まで、#100をもって終了しました。解答していただいた方に感謝します。
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